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ホーボージュン アジア放浪3カ国目「オドロキの登山王国・台湾」

(2016.06.30)

登山のTOP

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All photo by Yuriko Nakao

私たちの住む「アジア」を眺めてみると、

まだ知られていないトレイルが方々にあった……!

世界中を歩きめぐってきたサスライの旅人ホーボージュンが

そんなアジアへバックパッキングの旅へ出た。
3カ国目は日本の西に浮かぶ島・台湾へ!

 
 
台湾の山中にひとり取り残された

「……訪客、訪客!」

 どこか遠くのほうで人の声がする。

「請醒來!」

 肩を揺すられて、ハッと気がついた。慌てて飛び起きるとバスはすでに停車していて、制服姿の運転手さんが心配そうに僕の顔を覗き込んでいた。

「こ、ここはどこですか!!」

 慌てて尋ねるが、英語がまったく通じない。

「せ、せ、清泉橋は? ぼ、僕は清泉橋に行きたいんです!」
「你在哪裡下車?」

 ダメだ。ぜんぜん通じていない。僕はポケットから手帳を出すとそこに漢字で「清泉橋」と書いて差し出す。運転手さんはそれを見て「ああ、やっぱり」というような顔をしている。そしてバスの後方を指さして、大げさに肩をすくめてみせたのだ。

「清泉橋ならもう通り過ぎちゃってるよ」

 中国語がわからなくても、そう言っているのは間違いなかった。

「やっちまった……」

 顔から血の気が引いていくのがはっきりわかった。この大事な場面でポカをやってしまったのだ。ああ、これまでの苦労が水の泡だ。

 僕は自分がどこにいるのかわかないまま、そこでバスを降ろされた。いずれにしても反対方向に戻るバスはなく、ここからは自分の足で歩くしかない。

 運転手さんは指を2本立てると「リャン、リャン」と何度も繰り返し、僕の肩を叩いた。僕にはそれが「2km」なのか「2時間」なのか、それともVサインを出して励ましているのかちっともわからなかったけど、とにかく「やっちまった」ことだけは確かだった。

 やがて宜蘭(イーラン)発・梨山(リーリャン)行きの長距離バス「国光号」は黒い煙をモウモウと吐きながら細い山道を走り去っていった。

 6月10日午前10時15分。
 僕は台湾の山中にひとり残された。
 どれだけあたりを見回しても、そこには深い深い緑の山が横たわるばかりだった……。

じつは台湾は山岳王国なのだ

 みんなは「台湾」と聞いて、いったい何を思い浮かべるだろう? 
 飲茶? 小籠包? それとも烏龍茶? 
 まあ普通の人だったらそうだろう。でもベテランのアウトドアーズマンならきっとこう答えるはずだ。

「台湾といえば登山だろ!」

 そう。じつは台湾は知る人ぞ知る“登山王国”なのである。

 ご存知のように僕たちの住む日本には標高3,000mを超える高山が全部で21座ある。ところが台湾には3,000m峰がなんと144座もあるのだ……! さらにピークの数でいうとその数は200座以上に及ぶ。九州とほぼ同面積の小さな国土に、日本の10倍もの高山がひしめいているのである。
Googleマップで見ても一目瞭然。台湾は国土の55%を山が占める山岳王国だ。与那国島まではわずか110kmしかない。本当にすぐそこの「お隣さん」なのである
 そのため台湾では登山の人気が高く、国民のレジャーとして定着している。台湾各地に登山協会や山岳会があり、民放テレビでも登山番組が放映されているほどだ。

 また最近では若者のあいだで登山ブームが過熱していて、休日ともなるとカラフルなウェアに身を包んだ女の子たちが山に溢れている。この状況はいまの日本とまったく変わらない。

 ちなみに日本の山ガールブームを牽引してきた女子向けアウトドア誌『ランドネ』も台湾版が発行されている。現地では『楽遊時尚』というタイトルで、都市部の女子たちに大人気だそうだ。
専門誌も発行されている。『戸外探索・OUTSIDE』は裾野の広いアウトドア総合誌。『台湾山岳』は専門的な山岳雑誌だ
 もともと台湾の山に興味をもっていた僕に、去年、ちょっとしたきっかけがあった。Akimamaスタッフが台湾旅行のお土産に(やつらは生意気にも年末の社員旅行に台湾に遊びに行ったのである)『台湾百嶽全圖』という現地の山岳ガイドマップを買ってきてくれたのである。

 それまでまったく知らなかったが、台湾にも「百名山」があり、アマチュア登山家たちの大きな指針になっているのだという。

 日本と同じように全山踏破を目指してせっせと登り続ける人もいるし、週末のレジャーとしてハイキングに行く人もいるという。

 『台湾百嶽全圖』には百名山が20のエリアに分類されていて、それぞれのエリアの詳細な山岳地形図が敢行されていた。
同じ縮尺でGoogleマップの台湾と日本のアルプスの地形を比べてみると、日本と同じくらいかそれ以上に山が深いことが分かる

 これをみて僕の心が動いた。

 いや「百名山」にではない。僕は登頂にもスタンプラリーにもまったく興味がない。それより地図に載った「縦走ルート」に心惹かれたのだ。各地図には台湾各地の山々を繋いで歩くさまざまなルートが載っていた。
 
「そうか。台湾には3,000m峰が200座もあって、しかもそこを繋いで歩けるのか!」

 それは想像するだけでワクワクする話だった。しかも台湾へはわずか3時間半のフライトで行けるし、格安航空券を使えば往復3万円もかからない。下手したら北海道の山より近くて安いぐらいだ。

 僕は『台湾百嶽総図』を机に広げるとさっそく縦走計画(というか妄想)を立て始めた。題して「登頂して凍頂ウーロン茶飲むぞ! 台湾中央山脈大縦走計画」である。

 ところがどっこいぎっちょんちょん(また!?)

 台湾登山はそう簡単には行かないのであった。

山登りに国家の許可が要る!?

 僕が手始めに調べてみたのは台湾最高峰の玉山(3,952m)だ。

 玉山は日本人にとって馴染みの深い山である。日本統治時代(1895~1945年)には「新高山(ニイタカヤマ)」と呼ばれていたが、この名称には富士山よりもさらに高い「新しい日本の最高峰」という意味が込められていた。
画像:Wikipedia「玉山」より

 この山に初登頂に成功したのも日本人で、1900年4月11日に人類学者の鳥居龍蔵が登頂したのが公式な記録に残る最初のものだそうだ。

 ちなみに太平洋戦争開戦の暗号電文に「ニイタカヤマノボレ」という文言が使われたのは有名な話だ。当時の日本人にとって玉山はそれほど大きな存在だったのだ。

 戦後70年経つ今もこの山は日本人に人気で、多くの登山ツアーが組まれている。

 ところが調べてみたらこの「玉山登山ツアー」はけっこう高い。3泊4日で20万円もする。だったら個人で登ればいいや。そう思ったら入山規制が厳しかった。なんと入山申請は登山開始の4カ月前から40日前までに行わなければならないのだ。外国人向けには優先枠が設けられているらしいが、この枠が取れなかった場合は抽選になるという。そんな面倒な山、行きたくない。

 それなら、ということで台湾第2峰の雪山(3,886m)を調べてみた。この山も日本の登山家が開拓、初登頂した山で、その山容は南アルプスの北岳に似ていてアルパインな雰囲気だ。玉山と違って山小屋がなく(避難小屋はある)、シュラフや自炊道具、食糧を自分で担がないとならないところにも興味が沸いた。
画像:Wikipedia「雪山」より

 ところがこの雪山も国家公園(国立公園)に指定されているため、登山には入山許可が必要だということがわかった。「台湾の山は登るまでが大変だよ!」といろんな人から聞いてはいたが、なるほど、そういうわけなのか。

 ここから僕の苦悩と格闘の日々が始まった。なにしろ「許可申請」だとか「必要事項」だとか「内容をよく読んだ上」みたいな書類仕事が死ぬほど苦手で、お役所には近づかないジンセーを送っている。「なんで山登るのに人にハンコもらわなきゃいけないんだ!」という気持ちもあり、ストレスフルな作業だった。

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ライター
ホーボージュン

全天候型フリーライター。6,000mの高所登山からシーカヤックの外洋航海まで、フィールドとスタイルを問わない自由な旅を続けている。『山と渓谷』『ビーパル』『PEAKS』『Field Life』などアウトドア各誌で連載中。公式Twitterアカウントは「@hobojun

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