• 山と雪

思わずグッとくる山名は、登ってみても隠れ名山だった。

2014.10.09 Thu

「遊んで楽しい部分の山」と書いて遊楽部岳(ゆうらっぷだけ)。その名はアイヌ語のユー・ラプ(温泉の下る)川の上流にあることに由来します。漢字はもちろん当て字ですが、その字面はなんとも魅惑的。北海道の左下に大きく弧を描く亀田半島のほぼ中央に位置し、道南では狩場山に次ぐ高い山です。

 道内の山好きの間ではそれなりに知られた山ですが、実際の登山者はというと決して多いとは言いがたい。理由はいくつかあります。まずは行程が往復約20kmと長いこと。岩稜帯や渓谷などの派手な見どころにも乏しく、ひたすら長大な尾根歩きが続きます。また、クマの回廊と言われるほどにその痕跡は濃厚で、目撃情報も少なくない。道外からの登山者や今どきの登山女子&青年にアピールできる要素が少ないのは事実でしょう。

 しかし、行ったことのある人は皆、口を揃えて(そして私もまた)言うのです。
「遊楽部岳はなかなかの名山ですよ」と。

 実はこの山、ブナの自生北限地にほど近い(正しくは50kmほど離れているけれど、本州目線で言えばほぼ北限といっていいでしょう)。七合目付近まで見事なブナ林が広がり、歩いているとこれが何とも心地いい。抱えきれないような巨木も随所に見られます。北海道の人気山域——大雪山や知床、ニセコ周辺などではブナは見られないだけに、そのしっとりとした森はある種の新鮮さすら感じます。

 また、スケールの大きさもこの山の魅力のひとつ。標高1,277mという数字や半島上というイメージからは想像できないほどダイナミックな展望が広がります。五合目あたりから見上げる長い尾根の先に聳えるのは前衛峰の臼別頭。めざす遊楽部岳はその前衛峰に立ってようやく対峙することができますが、すでに八合目だというのにまだ遠く大きいこと。どっぷりとした歩き応えは、南アルプスにも通じるものがあるかもしれません。

 そして、この山の最大の特徴は「日本海と太平洋が同時に見える」こと。道内では他に羊蹄山など、本州では伊吹山で可能と聞いたことがありますが、いずれもぐるりと踵を返さないと見えないはず。ひとつの視界の中に双方が収まるのは、おそらく日本中でここだけでしょう。

 一見、地味な山容ながら、歩けば歩くほどその良さが見えてくる。帰宅して時間が経つほどに、再びジワジワとその味わい深さが滲み出てくる。遊楽部岳はそんな玄人志向の名山のひとつと言えます。普段、北海道のなかでもあまり注目することのないエリアだとは思いますが、機会があればぜひ。

(文・写真=長谷川哲)

■遊楽部岳/登山情報
日帰り:参考コースタイム 登り4時間50分、下り3時間40分
アクセス:八雲町から道道42号を約29km、北檜山町に入り太櫓川を渡ってすぐの林道を約800m入ったところが登山口。公共交通機関はない。商店や宿泊施設も半径20km圏内にはなし。
2万5000分の1地形図:左股、貝取澗、遊楽部岳
アドバイス:数字以上に長く感じられる山なのでペース配分に注意し、状況によっては臼別頭で引き返しを。また、クマの多い山域なので単独行は避け、対策を忘れずに。なお、11月に入ると降雪が始まり、来年6月まで長い冬となる。 

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