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“山の総合力” を試す「OMM JAPAN 2018 OKUMIKAWA」。読図あり藪こぎありの過酷な山岳マラソンレース

2018.12.08 Sat

河津慶祐 アウトドアライター、編集者

 毎年11月に決まって出場するレースがある。今年で開催5回目となる「OMM JAPAN」というレースだ。2014年の第1回目は「IZU SHIZUOKA(伊豆)」、2回目は「TSUMAGOI(嬬恋)」、そして「SHINANO OMACHI(信濃大町)」、「NOBEYAMA(野辺山)」と続き、今年は浜名湖の北部の「OKUMIKAWA(奥三河)」で開催された。

 初めてOMMを知ったのは、2015年の嬬恋にトレイルランナーの友人が参加したのがきっかけだった。レースの数日後、その友人と一緒に「しらびそ小屋」に泊まり、お茶とかりんとうを食べながらまったりしていると、おもむろに地図を取り出し、レースのおもしろさを事細かく説明された。そして翌年の信濃大町から恒例行事として今でも欠かさず参加している。

2016年に開催の信濃大町は鹿島槍ヶ岳の麓で開催。雪の北アルプスが絶景(左上)。2017年の野辺山は八ヶ岳の麓で。レース中、南八ヶ岳が一望できた(右上)。今年は愛知県最高峰「茶臼山」周辺の奥三河にて開催された。中央に見えるのが茶臼山(下)

「OMM JAPAN 2018 OKUMIKAWA」の動画。何度見ても当日の楽しさが思い浮かんでニヤニヤしてしまう。

 OMMとは「Original Mountain Marathon(オリジナル マウンテン マラソン)」の略で、50年前の1968年からイギリスで開催している、世界でもっとも古い2日間の山岳マラソンレースだ。大きな特徴といえば、2人組で行動すること、地図とコンパスで読図をすること、2日間で必要な装備をすべて背負い常に携帯しなければいけないことだろう。体力や経験だけではなく、判断力、ナビゲーション能力、戦略力、地形の分析力……などさまざまなスキルが必要となり、まさに “山の総合力” が試されるレースとなっている。

 カテゴリーは2種類。オリエンテーリング形式の「ストレート」は、スタートからCP(コントロールポイント)を順番に回り、ゴールにたどり着いた時間を競う。ロゲイニング形式の「スコア」は、制限時間のあいだ、さまざまな得点のCPを自由に回り、ゴール時点での得点を競う。さらに制限時間の違いがあり、計5つのクラスから選ぶこととなる。

OMMで使用する地図。これはストレート。スタートからゴールまで線が引かれていて順番に回る(上)。地図を頼りに道無き道を進む(左下)。CPはわかりにくい場所に設置されている。読図ができないと見つけるのは容易ではない(右下)。

 特徴のひとつの装備についてだが、必ず持って行かなければいけない「必須装備」がもうけられている。レインウェア上下や防寒着、ヘッドライト、ファーストエイドキットなど万が一の事態が起こっても対処できるようにするための装備で、ランダムに実施される装備チェックでこれらの不携帯が確認されると失格となってしまう。ペアのうちどちらかが持てばよい装備もあったりするので、詳しくはHPで。

 OMMでは1泊2日の装備を背負ったまま何十kmという長い距離を移動しなければいけないため、装備選びでは「軽量化」が一番重要となる。単純に、すべての装備を軽いギアにすればよいのだが、そこまでお金はかけられないのが現実だと思う。まずは1〜2点軽いULギアに変えてみよう。大幅に軽量化できるものといえばザックとテント。次にレインウェアといったところか。ザックは20〜30ℓくらいで500g前後、テントは2人用で1kg前後の物だと快適に行動できるはずだ。シュラフとマットもかなりの軽量化が見込めるが、この2点は就寝時の寒さに関わってくるギアなので、慎重に選んだほうがよい。水、食料、燃料など消耗品も含めたバックパックの重量(パックウェイト)が9kg以下だと行動が楽になってくる。もちろん軽ければ軽いほうが楽のは言うまでもないだろう。

奥三河で持っていった荷物たち。ここに飲み物1ℓと、冷凍してある鍋の具材(鶏肉800gと野菜)、コンビニで買った行動食、ブランデー500mlを足して、重量8kg(暖かかったので、スタート前にダウンパンツを抜き、靴ははいた)。できるだけ軽くはするが、どちらかというと快適性重視(上)。いつも使っている山と道の「MINI」はパートナーに貸したので、今回は「ONE」を使用(左下)。テントは500gと超軽量なNordisk(ノルディスク)の「LOFOTEN 2 ULW(ロフォーテン)」。ツェルトとストックの組み合わせより軽い。こんなに小さくても2人用(右下)。

 さて、今回の「OMM JAPAN 2018 OKUMIKAWA」は2日間とも快晴、そして気温も高く、とても気持ちのよいレースであった。のだが、OMMはあえて気候条件の厳しい時期に行なうというコンセプトなので、閉会式で主催者が「天気がよくて残念!」と嘆いていたのがとても印象的だった。前回の野辺山では、スタート直後に雪が降り、さらに1日目の夜はなんと-10℃近くまで気温が下がって、終始寒さとの戦いで辛かった。

 今年の参加者は1200人を超える。リタイアが続出するストレートBではなんとたった18%の完走率で、ストレート3クラスの平均完走率が25%と聞けばOMMの過酷さがわかるだろう。

 スタートの仕方が独特で最初は戸惑うかもしれない。指定された時間内にスタート地点に向かい、クラスごとに並ぶ。1分間隔で続々と選手が出走していくのだが、スタート直前に地図を渡され、1分間の地図確認後、合図とともに競技の開始となる。スタート直後は、走り出す人もいれば、現在地がまだ分からず立ち止まって地図を見る人と様々だ。最初のCPは選手が群がってしまうが、その後は各々自由なルートどりをしてばらけていく。どのようなルートをたどり、迷わず確実にいかに早くCPを見つけるかがOMMでは重要になってくる。

 今回の大会では、パートナーは初心者でトレイルラン経験もないため、9割は歩いていたと思う。しかし、すべてのCPを迷わず見つけられたので、参加したストレートCでそこそこの順位につけられた。

1日目のスタート地点。クラスごとに並ぶようになっている(上)。大会中に出会ったカモシカ。主のようにじっと選手を見つめていた(左下)。途中、目を奪われた紅葉(右下)。

 1日目のゴール後はキャンプ地での宿泊となる。好きな場所にテントを張って疲れを癒そう。OMMは夜がまた楽しいのだ! 「OMM JAPAN 2016 SHINANO OMACHI」では巨大なキャンプファイアーがあったこともあるし、友人がいれば近くにテントを張り宴会をしてすごすのも格別だ。

 2日目はまだうす暗いうちからスタートし、1日目と同じようにCPを周りゴールをめざす。ゴールまでがんばれば暖かい汁物が待っている。しかも無料! 迷わなければ昼くらいにはゴールできるので、2日間の汗を温泉で流し、その土地のグルメを堪能し帰宅しよう。疲れているだろうから安全に、家に帰るまでがOMM。

キャンプ場で仲間たちと過ごす夜は最高だ(左上)。2日目のゴールまでのラストラン(右上)。ゴール後に仲間たちと記念撮影(左下)。いつもは豚汁の場合が多いが、奥三河では猪汁がふるまわれた(右下)

 説明が長くなってしまったが、こんなに楽しい大会は他にないと思っている。読図や体力に不安があるならば、安全に楽しくOMMに参加するための技術を学べる「OMM LITE」という大会が年2回(2018年は)行なわれているので、まずはこれに参加してみてはどうだろう。2〜5名でチームを組め、1泊2日ではあるが、宿泊装備を持ったまま行動しなくてよいので荷物が軽くて楽なのだ。「OMM JAPAN」であれば、スコアなら歩きのみ、さらに読図に自信がなくても完走をめざせる。過酷ではあるが、自身の「山の総合力」を試してみたい! と思った人はぜひチャレンジしてみてほしい。
 


 

 余談だが、この「OMM」という言葉、大会名以外で一度は目にしたことがあるのではないだろうか。そう、ザックやウェアを出している山道具メーカーだ。OMMの大会用にと作られたメーカーで、雨が多く多湿な気候において快適で素早く行動できるように、というコンセプトのもとつくられたギアは、ザックやウェア、さらにシュラフやマットなど多岐にわたる。全身OMMで揃えて「OMM」に出場するのもおもしろいかもしれない。

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