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厚い!重い!でも仕上がりは最高。「エイアンドエフホットサンドクッカー」がいいぞ

2021.10.16 Sat

藤原祥弘 アウトドアライター、編集者


 昔々、とある町の若い夫婦の家で「空飛ぶホットサンドメーカー事件」と呼ばれる惨劇が起きた。

 夫はその事件まで、夫婦の諍いとともに起きるというポルターガイストを「そんな漫画みたいなこと、あるわけない」と笑っていた。しかしその日、確かにホットサンドメーカーは猛スピードで夫に向かって飛翔し、衝突・四散したのである。

「ときにホットサンドメーカーは超常の力を得て空を飛ぶ」。

 この事実を厳粛に受け止めた夫婦は、ホットサンドメーカーを深く、深く封印し、以来その名を呼ぶことさえ禁忌にしたという。

 ……さて、その若い夫婦と私はまるで関係がないが、空飛ぶHSM事件から14年を経てわがやにホットサンドメーカーがやってきた。モデルはコフランの「エイアンドエフホットサンドクッカー」。重厚な鋳鉄製である。

 このホットサンドメーカーを導入するにあたり、ゆずれない条件がいくつかあった。若い頃、喫茶店でバイトをしていた私は電気式メーカーで数え切れないほどのホットサンドを焼いたが、焼きながらストレスを感じていた。焚き火を使って焼くようになってからは、また別のストレスを感じるようになった。新たにホットサンドメーカーを入手するなら、それらのストレスを感じさせないものにしたい。条件をまとめると次のようになる。

・使っていて楽しい
・鋳鉄製
・耳を無駄にしない。焼いた耳が硬くならない
・パンをプレスするときに2つに分割しない
・適度な内容積
・挟んだときに上下のパンがずれない
・焼印がつかない
・ハンドルがプラスチック製でない
・上下がセパレートする
・価格がほどほどである

 調理器具には実用担当と愉快担当がある。たとえば、トースターが実用担当なら、たこ焼き器が愉快担当といったふうに。ホットサンドメーカーは使うことそのものが楽しみである以上、愉快さは妥協しないほうがいい。できあがるものが同じホットサンドでも、電気式メーカーと直火式メーカーでは使う楽しさがまるでちがう。そして直火式でも、デザインや構造によって使用時の愉快度が異なってくる。そもそもホットサンドメーカーは、実用性と効率を追い求めたら居場所がなくなる道具だ。「楽しいこと」はすべてに優先する。

 と、いいながら機能もないがしろにはできない。プレートがアルミ製でフッ素加工されたものは、熱伝導性も高く、軽くて焦げ付きにくい。しかし、使い込むうちに少しずつ加工が取れてくる。古びたら買い換えればよい、という向きもいるだろうが、あらゆる資源が枯渇する現代だ。長く使っても機能が損なわれないものを使いたい。

 その点で鋳鉄は焦げ付いてもゴシゴシ洗えるし、塗膜の剥離のような劣化もない。うっかり焚き火で焦がしても性能は変わらない。ラフに扱えることは、野外で重要な機能のひとつだ。

 耳を無駄にしないことと、耳を硬く焼き上げないことも重要だった。耳を切らないと収まらないモデルは手間がかかるし、切り落とした耳だけ別に食べるのはしみったれた気分になる。また、耳を強く圧着するモデルでは耳をバリカタに仕上げるものがあるが、やっぱり適度に柔らかいほうが美味しい。ガリガリではなくカリカリくらいにしてほしい。

 ホットサンドメーカーにはプレス時に隔壁がパンを両断するモデルもある。カリカリ部分が増えてうれしい、という人もいるだろうが、隔壁があるとフライパンとして使いづらいし、切ることはあとからでもできる。

 ある程度の内容積と、パンのずれにくさも使い勝手を左右する。プレートが浅いと挟める食材の量が制限される。また、ヒンジとプレートの距離が短いモデルは、プレスする際に上側のパンがハンドル側に滑りやすい。こんなモデルで食材ごとに異なるズレを予測しつつパンを置くのは面倒だ。

 焼印問題。もう、いい大人なので食べ物はプレーンな見た目がいい。

 ハンドル問題。プラスチック製の場合、焚き火で使うときに注意が必要だ。

 セパレート機能は必須だ。セパレートするモデルは小型フライパンとして使いやすく、また、接合部の掃除が行ないやすい。
 
 そして、価格。上記の条件を満たす鋳鉄製のものは比較的高価なものが多い。しかし、ホットサンドはありがたい道具でつくるものでもない。出がけに思いついて焚き火セットにガサっと突っ込めるくらいの存在感がちょうどいい。

 ……こんなわがままな条件にかなうのが「エイアンドエフホットサンドクッカー」だった。価格は3520円(税込)。重量は1.4kgだから、100gあたり251円だ。国産牛肉より安い。

「価格は手頃だがつくりが粗い」という評価も目にしていたが、それはコフラン製品に限っては褒め言葉である。おおらかな時代のアウトドアを感じさせる道具は、いまや希少だ。個体によって仕上がりにブレがあったり(だから購入時には要チェックだ)、購入後のカスタマイズが必要なのはコフランならでは。体験という付録だと思いたい。

 このクッカーにはずいぶん前から目をつけていたが、人気商品のようで在庫切れが続いていた。この秋の再入荷を聞き、慌てて入手した。それでは細部を見ていこう。

 パッケージには「compact camp cooker」の文字。日本でのモデル名と表記が異なるが、これは昔からある別モデルの「キャンプクッカー」との差別化をはかったものだろうか。キャンプクッカーは全長が66cmなので、確かにだいぶコンパクトだ。

 パッケージを開けると黒光りするフライパンが現れる。表には「COGHLAN'S」と「A&F」のロゴ。この刻印は表側にしかないので、焼き上がったパンには文字は入らない。家庭やバーナーでの使用を意図してか、全長は36cmと小さめだ。焚き火で使うときは、ハンドルを焼かないための工夫が必要になる。

 ハンドルはねじ込み式のため、さらに小さくしたい場合は分割して収納もできる。この機能は嬉しいが、ねじ山のオスメスの遊びが大きいため、ギリっとねじ込まないとハンドルがくるくるまわる。また、私の入手したものは、ハンドルが固定される位置までねじこむとロック機構のワイヤーがあさっての方向を向いてしまうものだった。これはハンドルをねじ込んだ状態で穴を開け直し、ワイヤーの位置を付け替えようと思っている。

 プレートは大判、かつ深め。セパレートすれば小さな極厚フライパンとしても使える。「蓄熱性の高い鉄板で肉を焼きたい」というソロキャンパーは、まずエイアンドエフホットサンドクッカーを買えばいいのではないか。鉄板ではホットサンドをつくれないが、このクッカーならホットサンドもステーキも焼ける。

 鋳鉄製品に多い欠陥が、溶かした鉄を流し込んだときにできる余計な凹凸だが、私のものには気になる欠けや出っ張りはなかった。下の写真の通り、ヒンジ部のバーの根元に余計な出っ張りがあるが、これくらいはご愛嬌。

 上下のプレートのヒンジ部はバーにフックを引っ掛ける方式だ。着脱は簡単だが、外れやすすぎない。調理時にはきちんとロックする。挟んだ食材の圧着は、ハンドルとプレートをつなぐバネ材のシャフトが担う。食材を挟んでハンドル末端のワイヤーをかけるだけで適度な圧が加わる。

 市販の食パンを置くと、計ったように1〜2mmの余裕を残してぴったり収まる。ホットサンドメーカーによっては、はみ出たパンを焼き捨てる構造のものもあるが、エイアンドエフホットサンドクッカーでは食材が無駄にならない。

 プレートはシーズニング済みだが、使う前に洗って乾かし、軽くオイルを含ませた。パンを焼いてみると初回からこの焼き上がり。ぶ厚い鉄が蓄熱するので熱が均一にまわり、きれいな狐色に焼き上がる。以降、数十回使っているが、使う前にオイルを含ませれば焦げ付くこともなく、どの回もきれいに焼き上がっている。

 何度も使ううちにパンの厚みが仕上がりを左右することに気がついた。プレートが深く、階段状のフレア部が急角度なため、8枚切りの食パンでは食材を多めに挟んでも耳の圧着がうまくいかないことがある。6枚切りを使うと耳の部分がきっちり圧着され、挟んだ食材とパンの量のバランスもちょうどよくなる。

 エイアンドエフホットサンドクッカーの使用感はざっと上記のとおり。機能にも焼き上がりにもたいへん満足している。コンロの上での座りもよく、キッチンでも野外でも使いやすい。重さだけがネックだが、野外に持ち出すときはどうせ車を使うのだ。担いで運ぶ人でもない限り、重さはそれほど問題にならないだろう。

 もうひとつの小さな問題が油汚れだった。剥き出しのままでは他の道具にススと油が移るようになったので、100均でジャストサイズの袋を買って収納袋にした。

 しかしこの袋、質感とロゴが絶妙にダサい。80年代のにおいがする。もう少し若い頃なら絶対に使わなかっただろうが、私ももう中年なのでダサさには寛容になった。

 ロゴの「LEBEN」という単語に覚えがなかったので辞書を引くと、ドイツ語で「人生」を意味するらしい。「人生。〜暮らしに夢を〜」といったところか。チープなプリントにいわれると余計に味わい深い。

 とある町でホットサンドメーカーがポルターガイストしてから14年。わがやのクッカーは人生と書かれた袋に収まっている。

コフラン/
エイアンドエフホットサンドクッカー
¥3,520
重量 1.4kg
全長 36cm
素材 鋳鉄

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