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「世界は、生きるに値する」 服部文祥最新作「ツンドラ・サバイバル」

(2015.07.08)

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通算8作目となる本書。発行順に読んでいくと狩猟観、食肉観、山行スタイルの変遷も楽しめる

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これまでは「生きることはナマ臭い」をキャッチにしていたが、今回の作品では「世界は、生きるに値する」に

 アウトドア誌はもちろん、最近はカルチャー誌やトークショーでもひっぱりだこのサバイバル登山家・服部文祥氏。そんな服部氏の最新作「ツンドラ・サバイバル」(みすず書房)が先月末、発表された。

 服部ファンならタイトルからわかる通り、本書は服部氏が出演したNHKの特番「地球アドベンチャー ~冒険者たち~北極圏サバイバル ツンドラの果ての湖へ」の旅を記録したもの。また、mbs製作の「情熱大陸」で放送された、2010年の冬と夏の山行記録も収められている。

 前半部は北海道、南アルプス、四国などの日本の山野で繰り広げられたサバイバル登山を収録。後半部では現地の狩人・ミーシャとともに、野生のカリブーを狩りながらロシア・チュコト半島にある隕石湖まで旅をする。

 基となっているのは「岳人」で連載されていた「超・登山論」。この連載に大幅に加筆して、2010年のシーズンから2014年までの釣りと狩りの記録がまとめられている。

 わかりやすさや面白さをときに優先するテレビでは、ストーリーの展開が性急だったり、背景が十分説明されないこともあるが、本書では服部氏が出演したふたつのドキュメンタリー番組の撮影当時の心情や、放映されなかったエピソードや諸事情にも触れられている。

「テレビ番組は旅の全行程から電波に乗せられる面白い部分だけをつなぎ合わせて製作されている。視聴者に飽きられないようにスピード感も求められるうえに、制作側は都合の悪い部分を省略してごまかすこともできるし、視聴者側も報告されない部分を勝手に想像して誤解することもある」
(あとがきより)

これらはある程度しかたがないとしながら、服部氏は

「(本書では)ノンフィクションであっても読み物として面白くなるように、出来事を取捨選択して構成している。あえて書かなかったこともあり、それは間接的な脚色といえなくもない。ただ、書いたことに嘘はひとつもない」
(あとがきより)

と宣言する。

 本書はそれ単体でも楽しめる構成になっているが、テレビの放送物と表裏となっていることを考えると、放送と合わせて読むほうが楽しめる。

 また、デビュー作の「サバイバル登山家」から追いかけ続ける服部ファンや、同時代を生きる狩猟採集の愛好家にとっては、またひとつ、服部氏が狩猟について思考を深めた部分に感銘を受けるだろう。

 服部氏はこれまでの著作のなかで、野山を縦横無尽に遊ぶのが難しい時代に生まれたこと、生存の実感を生活や行為から感じづらいこと、そしてそれをつまらないと感じていることを書き残している。しかし、今作では狩人・ミーシャとの出会いを通じて、以下のような思いを得ている。

「生まれもった自然児としての才能。その上に、いったいどれだけの試行錯誤をくり返し、どれだけの経験を積み重ねて、ミーシャは今の深みに達したのだろう。

 いや、おそらくミーシャだけじゃない。私が知らないだけで世界中にそんな猟師がたくさんいる。いま、目の前でカリブーをバラすミーシャがその証拠だ。

 猟師だけにとどまらない、木こり、漁師、遊牧民、罠師、なんでもいい。世界中にミーシャがいる。だとすれば—そう考えて静かで深い昂りがこみあげてきた。だとすれば、まだ人類は信じるに値する。世界は生きるに値する。この世界はとんでもなく面白い」

 この一文は、世界中に同志がいること、また彼らとの素晴らしい出会いの可能性を指しているように読めるが、あとがきまで読み通すと服部氏が「自分もまた、彼らのように生きられるかもしれない」と考えはじめたことを匂わせている。

 これまでの服部文学は、精力的な活動を記録しながらも、現代において生きている実感を得ることの難しさへの諦念を漂わせていた。
 
 冒険、探検の世界では未知の領域がすべて明らかにされており、登山の世界には挑戦するべき大きな課題は残っていないこと。

 登山や生活において、道具やスタイルを規制することで難易度を高められても、使う道具やスタイルを選択するのは自分で、純粋さに欠けること。

 どんなフィールドでも法の網がかけられて、自身と自然の間に常に「法」が干渉してくること。

 「自分にしかできないこと」は、もはや表現や思考を深めること以外に残されてはいないのではいかーーー

 このように、心血を注ぐべきテーマを見つけながら、それに全身全霊で挑むことができないもどかしさが服部文学にはつきまとってきた。

 ところが今回のツンドラへの旅で、服部氏は「世界は生きるに値する」という決意を得た模様。

 これまで以上の覚悟をもって登山論や狩猟論を服部氏が深めていく予感、あるいは表現からも解き放たれて、実践の世界へ向かう可能性さえ感じさせて、本書は結ばれる。

 なお、「地球アドベンチャー ~冒険者たち~北極圏サバイバル ツンドラの果ての湖へ」は7月21日(火)午後4時30〜59分にBSプレミアムで再放送される予定。未聴の人は、見逃すな!

ツンドラ・サバイバル
みすず書房 ¥2,400+税

http://www.msz.co.jp/book/detail/07918.html

 
 
ライター
藤原祥弘

野生食材の採集と活用、生活技術につながる野外活動などを中心に執筆とワークショップを展開。twitterアカウントは@_fomalhaut

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