line_box_head

アウトドア好きなら、こんな高校で勉強したかった! 県立尾瀬高校自然環境科

(2016.11.08)

カルチャーのTOP

icon

 まるでアメリカのハイスクールのようなオープンな教室、ウッデイな作りの資料室には大きな暖炉があり、それを囲むようにたくさんの自然科学にまつわる書籍や資料、一歩外に出れば、校内には自然植物園があり、初夏になるとミズバショウが咲き、そこはミニ尾瀬とも呼ばれている。
 尾瀬の玄関口、群馬県沼田市にある県立尾瀬高校は、日本で唯一の自然環境科があり、1年生から3年生まで各学年の定員は32名。普通科と合わせるとおよそ180人が「自然との共生」を掲げ、地域の自然やコミュニティとともに学んでいる。
「ミニ尾瀬」と呼ぶ湿原の周りには県産材を使った木道も敷設され、季節になるとミズバショウをはじめとする湿原植物が咲く
 とくに、全国で唯一の自然環境科は、日本の自然保護発祥の地でもある尾瀬をフィールドとし、自然観察や環境調査などの課外活動を中心としたカリキュラムで、県内だけでなく全国から生徒が集まっている。ここでは、登山やキャンプなどの実践的アウトドア活動を通し、センス・オブ・ワンダーとも呼べる豊かな感受性と、多くの人に自然のすばらしさや尊さを伝えるコミュニケーション能力、そして自然とともに豊かに生きるための力を日々磨いている。
 学校を案内してくれた教務主任の中村卓雄先生は「うちの生徒はみんなプレゼンテーションの能力が高いと思います」というように、体験を通じて得た、自然からのメッセージをわかりやすく伝えるインタープリテーションや、自分の足と頭を使って調べた成果を正確に発表するプレゼンテーションを重視した教育プログラムが、自然環境科の特徴でもある。
壁も黒板も机もないオープンなミーティングルームで、研究の成果を各人が発表することでプレゼンの能力が鍛えられる
暖炉をぐるりと囲むように椅子が配置され、書棚には自然関連書籍が並ぶ、特に図鑑は同じものが何冊もあり、調べ物をする際に誰かが読んでいても大丈夫
 「今日は武尊山に1年生が校外実習に出かけていて……、もうそろそろ帰ってくるはずなんですけど、ちょっと遅いなぁ」と中村先生がちょっと心配そうに外の空を見上げた。
 赤い屋根が校舎よりも目立つステキな自然環境棟が尾瀬高校の自慢でもあるが、本当の学び舎は、周りの豊かな自然環境であり、そこが彼らの教室でもある。自然が相手だけにやはり、天候の急変やケガなど、野外での心配ごとは尽きないという。そのためにはしっかりとした装備や準備が必要で、備品庫に案内してもらうとテントからストーブ、コヘルやカトラリー、さらには熊よけスプレーがしっかりと整理され、そして個人装備ロッカーには、双眼鏡、コンパス、そしてサバイバルシートにエマージェンシーキットが入っている。
 「フィールドに行くときは各人がここから個人装備を持って行き、帰ってきたらまたここに戻すんです。だから今誰がフィールドに出ていて、誰が帰ってきているのかわかるんです」
備品庫はキレイに整理され、どこに何があるのか一目瞭然。使い終わったら必ず元の位置に戻す。道具の保管やメンテナンスも重要な学びだ
個人の備品ボックスには尾瀬高校の調査であることがわかる腕章と双眼鏡、そしてコンパスにエマージェンシーキットが入っている

 また、このような特色のある学校だけに、自然環境科に入学する生徒のみ県内だけでなく県外からも生徒を募集している。そして、そのような生徒には、「尾瀬ハートフルホーム・システム」というホームステイ(下宿)制度を設けている。これは、地元の一般家庭が、ホストファミリーとなり、部屋を県が借り上げ、生徒に月1000円で貸し出し、生徒は1日3食の食費、水道、電気代の月額約4万円を自己負担するというもの。なかには築100年もの古民家が民宿の下宿から通う生徒もいたりと、勉強だけではない貴重な経験が得られるとともに、地域の活性化にも一役かっている。

赤い屋根の自然環境棟は尾瀬高校のシンボルでもあり、その一角には、尾瀬に関するデータや資料が集められた「尾瀬情報センター」が設けられ見学も可能だ

もともとの県立武尊高校が、平成8年に校名を尾瀬高校に改称し自然環境科を新設した。自然環境科の中で、自然環境コースと環境科学コースに分かれる
 偏差値教育偏重の昨今、コミュニケーション能力や生きる力をどのように教育の中で、身につけさせることができるのかなど、学校教育の課題が多いなか、豊かな尾瀬の自然の中で、人間にとって本当に必要な知恵や技術、さらには人間らしく生きていくための能力が学べる尾瀬高校は、潜在的な可能性に持ちている。
 知の巨人と言われ、探検家でもあり国立民族学博物館の初代館長を務めた生態学者の梅棹忠夫氏は、15歳の時、初の著作とも言える山行記『山城三十山記』のあとがきの中で、「山は学問的、研究的な態度であってこそ山のたのしみは、うんとよくわかるとおもいます。じつに山は一大総合科学研究所であります。この研究所で、もっとうんとたがいに山を研究し、知識をまそうではありませんか」と述べている。
 尾瀬というフィールドから次の世代の新たな知の巨人が現れるのが楽しみだ。
 

 
 

 
 
ライター
滝沢守生(タキザー)

本サイト『Akimama』の配信をはじめ、野外イベントの運営制作を行なう「キャンプよろず相談所」を主宰する株式会社ヨンロクニ代表。学生時代より長年にわたり、国内外で登山活動を展開し、その後、専門出版社である山と溪谷社に入社。『山と溪谷』『Outdoor』『Rock & Snow』などの雑誌編集に携わった後、独立し、現在に至る。

line_box_foot