line_box_head

【連載】日本のロングトレイルを歩く vol.5 信越トレイル80㎞が苗場山へ延びる!! 延伸踏査チームに密着取材

(2018.07.14)

カルチャーのTOP

icon

 日本ロングトレイルの先駆けである総延長80㎞の信越トレイルが、苗場山へ延びる! という噂をキャッチしたAkimama取材班は、早速長野県飯山市の「なべくら高原 森の家」内に事務局を構える信越トレイルクラブへ向かった。

 というわけで、Akimamaの連載企画「日本のロングトレイルを歩く」の第5弾は、信越トレイルの延伸踏査チームに密着した1日をレポートしよう。

【「信越トレイル」の詳細については、vol.4 日本を代表するロングトレイル・信越トレイルは、こうして生まれた!を参照】

 信越トレイルの北東端、天水山から南へと進路をとり、日本屈指の秘境・秋山郷を通って、日本百名山の苗場山まで延ばす計画が、いよいよ動き出したのだ。
信越トレイルが秘境・秋山郷を通って、日本百名山・苗場山へと延びる。棚田あり、名宿あり、美渓あり、名湯ありのバリエーション溢れるトレイルとして、レベルアップすること間違いなし! (地図製作:オゾングラフィックス)

「信越トレイルを苗場山まで延ばす計画はもともと、信越トレイルが開通した2008年の頃からありました。信越トレイルを含めたロングトレイルという文化が、日本社会に浸透し、信越トレイルの運営もボランティアや関係各自治体のご協力により質の高い安定したものとなり、ロングトレイルの成功例として挙げられるようになりました。土台がしっかりしてきたいま、次のステップとして延伸計画を進めようという機運が高まったのです」

 信越トレイルの運営から維持管理までをとりまとめて行うNPO法人信越トレイルクラブの事務局長である大西宏志さんはこう語る。

 6月某日、信越トレイルクラブによる延伸区間のトレイル踏査に同行させてもらうことになった。

 トレイル踏査チームは、2日間をかけて天水山の麓にあるJR飯山線森宮野原駅から、苗場山の登山口である秋山郷の小赤沢集落をめざす。目的地は決まっているが、どのルートを通るかはまだ決まっていない。長野県栄村と新潟県津南町にまたがるそのエリアには、候補となるルートがいくつもあるようだ。それらを1本1本歩いて、地元の意見を取り入れながら、関係自治体と議論を重ね、ひとつに絞っていく。今回はその議論をはじめるための資料を集める踏査というわけだ。

 われらAkimama取材班は、2日目の逆巻温泉「川津屋」から小赤沢までの約15㎞を一緒に歩かせてもらった。
今回いっしょに歩いた信越トレイルクラブ事務局のみなさん。左から、米国の三大ロングトレイルのひとつアパラチアン・トレイルを2016年に踏破した鈴木栄治さん、学生時代にニュージーランドの名トレイル、ミルフォード・トラックを踏破した経験がある大西宏志さん、信トレのことならこの人に聞け「信越トレイルの看板娘」内野美雪さん、今春スペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラの巡礼路を歩いてきたばかりの浅井忠博さん。

 今回われわれが歩く踏査ルートを地図から引っ張ってきた鈴木栄治さんは、歩きながらこう言った。

「なるべくアスファルトを通らず、古道があれば古道を繋ぎ、既存のトレイルがあれば積極的に歩いて踏査したいと思います。個人的には、観光スポットを繋ぐことも大事ですが、道そのものが魅力的であればと思っています。」

 信越トレイルのガイドラインのひとつに「生物多様性の保全」がある。これは、新たに森をむやみにきゅう切り拓くことなく自然を保護しながら、既存の古道やトレッキングルートを生かして、トレイルを選定し維持管理するという意味でもある。トレイル踏査の段階からしっかりとそのガイドラインが守られている。
新潟県津南町の逆巻温泉「川津屋」から見倉橋を経由し、見倉トンネルまでの歩き道を紹介する「秋山郷トレッキングコースマップ」。今回はこのコースを忠実になぞってみることにした。踏査スタッフは、1/2万5千と1/5万の地形図を2種類手にして、現在地をチェックしながら歩いた。

 前泊した逆巻温泉「川津屋」から中津川の左岸を南へ向かう。ここは逆巻温泉「川津屋」がある逆巻集落と結東集落とを結ぶ古道である。しばらく行くと結東集落の石垣田が目の前に広がった。

 この石垣は苗場山や鳥甲山付近にある柱状節理が、長い年月をかけて崩れた落石を集めて組んだものだ。石積みの高さは高いもので3mもある。明治25年(1892年)頃から村人たちの手で少しずつ組まれ、毎年少しずつ補修され、いまに至る。生まれ変わる信越トレイルも石垣田のように地元民に愛されるものであってほしい。
結東の石垣田。田植えを終えたばかりの水田は、青空を写し、きらきらと輝く。奥は中津川の左岸にそびえる柱状節理。左手の山裾には風穴が点在し、エゾヒョウタンボクなど希少な植物が生育している。

 結東の棚田を見ながら大西さんが、1日目の踏査で起こった出来事を話してくれた。

「歩いていたら1台の車が止まって『なにしてんだあ?』って声かけられたんです。いろいろな道をご存知で、教えてもらって、『お詳しいですねー、お仕事はなにをされているんですか?』って聞いたら、津南町の旧町長だった。信越トレイルを伸ばす計画で、いま調査しているんですって言ったら『楽しみだねーっ!』って言っていただきました。やっぱり歩くといい出会いがやってきますね。車で調査しているだけでは、なかなかそうはいきません」

 いまやインターネットで調べれば、ある程度の情報を椅子に座りながらでも入手できる。ついにグーグルマップのストリートビューは、富士山の山頂まで行ってしまった。しかし、現地に足を運び、そこに住む人と話をして、その土地の空気を吸って、匂いを嗅いで、汗と引き換えに得た生きた情報こそが、信越トレイルにとって大事な情報となる。先を歩く信越トレイルクラブの人たちの背中が、そう語っていた。

 結東集落にある「かたくりの宿」に立ち寄り、支配人の渡邊泰成さんから情報を集めた。廃校になった小学校を改装した秘境の温泉宿として、若い女性にも人気のある宿である。苗場山へ信越トレイルが開通した暁には、テント泊ハイカーでもついつい泊まりたくなるであろうすてきな宿であった。
源泉掛け流しの温泉がある秋山郷結東温泉「かたくりの宿」。立ち寄り入浴も可能だ。山菜やきのこなどの地元食材を使った料理が人気。この周辺にテント場ができたらサイコーだなと取材班は思った。

結東集落から見倉橋へ。「失礼しまーす」と民家の前を通らせていただく。ここ秋山郷は、かつて日本中で見られた日本の原風景がまだあちこちに残っている。

中津川にかけられた見倉橋を渡って、右岸へ渡る。オダギリジョーが主演をつとめた映画「ゆれる」の舞台となった風光明媚な吊橋だ。ところどころに設置された「秋山郷トレッキングコース」の案内板。雪の重みでなのか、地面に転がっているものが多かった。信越トレイルが、再びこのコースに光を当てることができるのか?

 中津川の右岸、川から一段高いところにある見倉集落は、秋山郷のなかでも住んでいる家が数軒しかない限界集落だ。家の前で鎌を研いでいたおじいさんに挨拶し、アスファルトの県道以外の古道がこの先あるか、鈴木さんが尋ねている。

「なによりも地元のひとと話して、コミュニケーションをとることが大事だと思います。地元の理解、協力なくしては、ロングトレイルはつくれませんから」

 信越トレイルクラブ事務局長の大西さんはそう言う。信越トレイルは地元の理解と応援があったからこそ、ここまで成長し確固たるものになった。そのことを肌で感じているのだ。
見倉集落のおじいさんから、古道について聞き取りをする鈴木さん。アスファルトの県道を歩かない古道があった!

見倉トンネルから15分ほど金城山方面へ登ったところに立つ栃の巨木「見倉の大栃」。根を保護するためこれ以上近くにいくことはできない。写真ではあまり大きさが伝わらないが、幹周り8.5m、樹高25m、推定樹齢は500年! 周りにも巨木が乱立し、ここにルートができれば信越トレイルのパワーポットとして人気を集めることだろう。

JR森宮野原駅から苗場山までは苗場山麓ジオパークのエリア内。さまざまな地形や地質から、地球の息吹を感じられる稀有なフィールドだ。まさにロングトレイルのフィールドにぴったり。

大赤沢集落と小赤沢集落を繋ぐ古道「牧之の道」に立つ石仏。かつては旅人を導く道標だった。

 江戸時代後期に、ここ秋山郷を世に広めた人がいる。塩沢の商人、鈴木牧之(すずき・ぼくし)だ。冬になると雪に閉ざされる越後の山間地にたたずむ集落を歩いて、人々の生活習慣や知恵を文字と絵にして発表した。代表作として『北越雪譜』や『秋山紀行』などが知られている。その鈴木牧之がかつて歩いたであろう道を復活させた古道「牧之の道」は道標が整備され、歩きやすいトレイルだった。

「現場の声」「道の整備状況」「危険箇所の有無」などの生きた情報を地形図に落とし込み、さまざまな視点から意見を交わす。

 ロングトレイルとは、山頂にこだわらず、フィールドの自然、地形、地質に目をとめながら、そこに住む人々の習慣や文化、歴史に触れながら歩ける長い道のことである。

 ならば、信越トレイルは延伸することで、さらにロングトレイルらしいロングトレイルとして生まれ変わることができるだろう。

 今回歩いた15㎞は、そう確信できる魅力的な歩き道だった。

 新・信越トレイルの誕生は、2020年秋の予定だ。


【おまけ】
 長く歩けば、歩くだけ腹は減る。ロングトレイルの楽しみのひとつ、それは地物を食べること。秋山郷を代表する食べ物といえば、四季折々の山の恵みだ。その中でも春は、ずば抜けて食材が豊富。その代表が、熊肉と山菜だ(写真はいずれも『川津屋』の夕食)。
地元の猟師が獲った熊肉はまったく癖がなく、赤身はコクがあって柔らかく、脂身はさらっとしてしつこくない。だれもが熊肉のイメージを覆される一品だ。味噌ベースの鍋でいただくのが秋山流。コゴミ、ウド、ワラビ、ネマガリダケなど、雪深い北信地方では山菜が春の訪れを告げる。春の芽吹きは、厳しい長い冬を生き抜いた地元民の心身を癒し、活力になる。 
 
 歩くまえに食すれば、ロングトレイル完歩の源に!
 歩いた後に食べれば、心身ともにリカバリー!

【文=森山伸也 写真=太田孝則】

 
 
ライター
森山 伸也

越後の山村に暮らすアウトドアライター。一年を通して縦走登山、渓流釣り、山スキーと山遊びがメインだが、夏は犬とともにSUPで日本の川を下る。著書に『北緯66.6° 北欧ラップランド歩き旅』(本の雑誌社) →InstagramTwitterFaceBook

line_box_foot