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<書評>野遊びこそ野外活動の原点だ。『生き物としての力を取り戻す50の自然体験』

(2018.08.11)

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 テック系出版社の大手、オライリー・ジャパンからどきりとするタイトルの本が登場した。その名も『生き物としての力を取り戻す50の自然体験』。カシオが提供する野遊び紹介サイト『WILD MIND GO!GO!』から記事を抜粋し、再編集されたものだ。

 本書で紹介されているのは、天体、生物、鉱物、食……などの自然物をテーマにした野遊び。身近な自然を題材にした、知的好奇心をくすぐる遊び方を50本収録している。

 遊びの紹介者はその道のエキスパートたち。昆虫写真家やアーティスト、研究者をはじめとする33人が執筆に携わり、生物学者の福岡伸一さんも巻頭言を寄せている。

 紹介されているアイデアや技術は、小学生中学年から取り組めるものが中心だが、もちろん大人が読んでも楽しめる。外遊びが好きな人が本書をめくれば、心を動かすテーマをいくつか見つけられるはずだ。
 
 ざっと目を通してから興味を持ったテーマに挑戦してもよいし、キャンプ地や旅先などの実践できそうな場面で引っ張り出して、教科書にしてもいい。夏休みの自由研究に詰まっている親子には、ネタ帳にもなるだろう。

 かくいう私も、冬の大潮の真夜中の磯歩きや、摩擦式の火起こし、ドングリからのデンプンの精製、五寸釘を使ったナイフの作り方などの記事を担当した。

 そして、ウェブ向けに書いた記事を書籍に合わせるために手を入れながら、あることに気がついた。現在のアウトドアの世界からは「野遊び」というコンテンツがごっそりなくなっているのだ。

 本書で紹介されているような野遊びは、90年代までアウトドア界で大きな存在感があった。当時のアウトドア雑誌を引っ張り出してみると、野遊びの紹介が全体の2割程度を占めている。

 この20年のアウトドア界を振り返ってみると、80〜90年代に紹介されていた素朴な野遊びの記事こそ、人々を野外活動の世界へといざなう「門」だったのだと思う。

「何に心を惹かれているのかわからないけれど、なんだか自分は、外遊びが好きなようだぞ」と気がついた人は、大衆誌で紹介される野遊びを通じて、自然観察やネイチャーフォト、キャンプ、登山、田舎暮らしなどに出会い、やがてそれぞれのジャンルを支えるようになった。

 また、そんな風にしてアウトドアを始めた人は、今でも幅広く野外活動を楽しみ、かつ数十年にわたって野外活動に取り組む人が多いように思う。

 ところが現在は、アウトドア雑誌には野遊びがまるで登場しなくなった。まったくの初心者や子供が雑誌を開いたとき、予備知識なしで楽しめる記事は少ない。そのかわり充実しているのは、消費につながる情報だ。

 数年スパンで訪れるアウトドアブームが一過性なのは、こんなところにも理由があるように思う。物欲を発散する対象としてアウトドアを選んだ人は、買い物に飽きたら離れてしまう。しかし「外遊び」が行動の核になっている人は、細く長く、野外活動を深め続ける。

 自身の少年時代を振り返ってみても、少ない小遣いでも実践できる野遊びを雑誌が紹介してくれたおかげで、憧れた野外活動の世界に対して興味を維持できたように思う。

 当時の雑誌で存在を知った、近所の川でも楽しめるバードウォッチングや漂着物の蒐集、ロープワーク、焚き火の技術、道具のDIYなどは、タダで実践できて、それでいてどれも現在の私の核になっている。

「今は野遊びはそれほど人気のコンテンツではないのだから、仕方がない」という人もいるかもしれない。ところが、野遊びが不人気になったわけではないようだ。

『生き物としての力を取り戻す50の自然体験』は発売から20日目(2018年8月10日)にして、amazonのキャンプ部門の売れ筋ランキングの1位になっている。素朴な野遊びに挑戦したい、という欲求は今も確かにある。

 野外活動の本領は、ひとりで立つ力を身につけることにある。野遊びを紹介する本が「生き物としての力を取り戻す」というタイトルで出版され、人気を集めているのは注目に値する。

 素朴な野遊びは、現代でも大きなコンテンツになりえる。日本のアウトドア界はもう一度、あらゆる野外活動の原点である「野遊び」について、真剣に捉えなおしてもいいのではないだろうか。

生き物としての力を取り戻す50の自然体験
オライリー・ジャパン
¥2,200+税
カシオ計算機株式会社 監修
株式会社Surface&Architecture 編集

本書の使い方・楽しむための大事なルール
生き物としての力を取り戻す | 岡村祐介
人生にとって大切なことはすべて虫から学んだ | 福岡伸一
不思議を知覚し、発見する力を養うために | 阿部雅世

Chapter 1 感じる
01 日本のロックバランシング「石花」で石を立ててみよう
02 ネイチャーカラーパレットで自然の色を感じよう
03 高度1mから飛び込み、視線を解放 マイクロスカイダイビングに挑戦
04 森の中で「あかり」を楽しもう
05 森と同化し、森の音を録ろう
06 自然の音に歌詞をつけよう
07 オノマトルーペを使って自然のテクスチャーを楽しもう
08 自然の中の歩き心地を感じハプティックスケープを描こう
09 自然の匂いを抽出して香水を作ろう

Chapter 2 見つける
10 空飛ぶざぶとん ムササビを目撃しよう
11 大潮の夜 真夜中の磯を探検しよう
12 青く輝く神秘 ウミホタルを観察しよう
13 世にもかわいい毒きのこを探しに行こう
14 空飛ぶアメーバ 粘菌を探しに行こう
15 不思議な生物 地衣類を探しに行こう
16 腹ぺこイモムシを見つけよう
17 太古に生まれた天然石を見つけよう
18 ビーチコーミングで浜辺の宝物を集めよう
19 シェイプハントで自然のかたちに恋しよう
20 魚を食べて魚の耳石を見つけよう
21 春を待つユニークな顔 冬芽を探しに出かけよう

Chapter 3 意識を変える
22 半月で地球の公転を実感しよう
23 地球を背負って流れ星を見よう
24 寒さが好きになる発想転換をネイティヴアメリカンに学ぼう
25 身近な「川」を探して「流域地図」を描こう
26 カラフルな土を絵の具にして絵を描こう
27 映像の工作 自然の個体差を観察しよう
28 苔テラリウムで苔の気持ちに迫ろう
29 人工の自然を探しに行こう
30 街のスキマに植物を、そして生態系を探してみよう

採ること、食べること、交わること | 藤原祥弘
森に炎をもらいに ―ナイフ1本で火をおこすということ― | 川口拓

Chapter 4 食べる
31 摘み草をして春の小川の「道草」を食べてみよう
32 糖化を利用して野菜と麹のジャムを味わおう
33 ドングリからデンプンをとって「ドングリもち」を食べよう
34 季節を感じ紅葉を食べてみよう
35 焚き火を使って「干し肉」を作ろう

Chapter 5 身につける
36 ペグ作りでナイフの基本を身につけよう
37 ナイフ1本で火起こし きりもみ式発火を身につけよう
38 タープと2種のロープワークでシェルターを作ろう
39 フォックスウォークを身につけて地球と歩こう
40 野生動物と同調する技を身につけてトラッキングをしてみよう
41 身体に「ものさし」をインストールしよう
42 風見鶏になって風を感じリングワンデリングを体験しよう

Chapter 6 作る
43 「カラムシ」の繊維で紐を作ろう
44 五寸釘を七輪で熱してナイフを作ろう
45 コールバーニングをマスターしてウッドスプーンを作ろう
46 空き缶でウッドガスストーブを作ろう
47 葉っぱの神秘 葉脈標本を作ろう
48 デジタル・ピンホールカメラを作って光と遊ぼう
49 100%自然のオブジェ 「ハナズミ」を作ろう
50 身近な薬草「オオバコ」で軟膏を作ろう

 
 
ライター
藤原祥弘

野生食材の採集と活用、生活技術につながる野外活動などを中心に執筆とワークショップを展開。twitterアカウントは@_fomalhaut

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