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【連載】日本のロングトレイルを歩く vol.15 ぐんま県境稜線トレイル踏破録:第三章「4ヶ月越しの後半戦はー7℃の世界! からの湯めぐりで締め」

(2018.12.04)

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今一番長距離歩いているライターとして評判の中島英摩さんのぐんま県境稜線トレイル踏破録。開通前の6月に谷川側から歩き始め、天候の悪化により一旦途中下山しましたが、地中海から大西洋までピレネー山脈を1000km歩いた夏を挟んで、先日残りのルートを完歩。ついに完結編です!

▼これまでのお話はこちら
【連載】日本のロングトレイルを歩く vol.12 ぐんま県境稜線トレイル踏破録:序章「ハシからハシまで行ってみよう!」
【連載】日本のロングトレイルを歩く vol.13 ぐんま県境稜線トレイル踏破録:第一章「俺の馬蹄形を越えてゆけ」
【連載】日本のロングトレイルを歩く vol.14 ぐんま県境稜線トレイル踏破録:第二章「未開の地グンマー? 新規開拓ルートに挑む」


 6月某日、土合をスタートしたわたしは、3日間かけて野反湖まで到達した。しかし、梅雨前線がわたしを追いかけてきて、どうにも逃げ切れそうになくて、いったん降参することにした。

 ぐんま県境稜線トレイルは、群馬と新潟の県境のハシ『土合』から群馬と長野の県境である逆側のハシ『鳥居峠』までを繋ぐ全長約100kmのトレイルだ。SUUNTOの記録によると、1日目(土合ー大障子避難小屋)が30.21km/3,181mD+、2日目(大障子避難小屋ー平標山ノ家)が9.19km/1,034mD+、3日目(平標山ノ家ー野反湖)が31.52km/2,503mD+だ。

だいたいコースタイムの60%~70%のスピードで歩いている

(んん?あれ?)
(おかしいな?)
(足し算すると70.92km?)

 まだ半分なのにあと30kmで終わるわけがない。ん、ま、とにもかくにも、“半分くらい”に位置する野反湖で前半を終え、後半の約60kmを残したまま、わたしは海の向こうへ飛んだ。実は今年の夏は、いろいろ訳あってピレネー山脈という超ロングなトレイル1000kmを歩いてきた。

 いきなりゼロがいっこ増えたが、そんなこんなで日本の夏山シーズンを留守にしたために、宿題は残したままだった。しかも、帰国した9月は次から次へと台風がやってきて、山など行けたもんじゃなかった。秋晴れなんて言葉があるけれど、今年の日本の秋は3日間晴れ続きを狙うのが難しかった。10月も後半に差し掛かる頃、やっと晴れマークが並んだ日があった。

4ヶ月越しのぐんま県境稜線トレイル後半戦に出発

「行きます!」

 前日まで粘りに粘って、決行することにした。第三章のはじまりである。もう野反湖キャンプ場はシーズンオフで営業が終了している。バスもない。今回もまたAkimamaスタッフが夜通し運転してスタート地点まで送り届けてくれることになった。0時に都内を出て、暗いうちに野反湖に到着した。夏にもし野反湖を起点にするならば、野反湖までバスで行き、キャンプ場で前泊して翌朝早出するのが良いかもしれない。

 初日の行程は、24~25km、累積標高は1,871mだ。一般的な登山としてはなかなかの距離と累積だけど、これまでのコースに比べれば歩きやすいトレイルだ。岩場もなければ、複雑なルートもない。でも、もしかすると冬眠前のクマさんがいる可能性がある。夏よりもずいぶん日が短いが、明るい時間帯のみで歩く計画を立てた。

 スマホの目覚ましの音で目が覚めて、身体を起こす。車の窓が白い。スライドドアを開けると地面の枯草は白く凍りついていた。

出発は6時前

スタッフのみさきちゃんが写真を撮ってお見送りしてくれた! 夏の服装とは大違い

 ぐんま県境稜線トレイル踏破録の4日目にあたる今日は、公式マップの「野反湖エリア」と「草津温泉・長野志賀高原エリア」の2枚に渡るコースを歩く。後半は幕営地がない。山小屋も避難小屋もない。通して歩く場合は良いが、セクションハイクでのコース取りがむずかしい。早朝に野反湖を出発して、横手山頂ヒュッテか熊の湯・ほたる温泉あたりに泊まるのが良さそうだ。わたしは、予備日含めて3日しか予定を空けられなかったので、初日の目的地をさらに先の万座温泉に設定した(まぁ本当のところは万座温泉に泊まりたかったというのもある)。

 野反湖~横手山の区間は、ちょっとマイナーなトレイルだけど、そこそこ物好きハイカーには歩かれている。以前「SPAトレイル」という温泉地を繋ぐトレイルランニングレースの応援ついでに歩いてみようと思ったことがあったが、「熊に遭った」「熊を見た」という山行記録が多くてびびって止めたのだ。

8月にトレイルが全線開通したからか、道標には見慣れない「ぐ」マークが付いている

標高1530mのキャンプ場の10月は霜が下りていた

 一歩踏み出すたびに、バリバリと音がする。霜柱だなんて。汗だらだらで歩いた谷川が昨日のように思えるけれど、いつのまにかもう冬になっていた。1年なんてあっという間だ。トレイルを入ってすぐのところに宮次郎清水という水場があったが、水が出ていない。おそらくもう凍っているんだろう。

ぽつりと一滴も出ない

キャンプ場から三壁山への登り

 新規開拓ルートだった三坂峠から白砂山はずっと笹に囲まれていたが、相変わらずこちらも笹の山だ。けれど夏のうちにハイカーにある程度踏まれた笹はぺたんこになっていて歩きやすい。こういうところは、夏の初めよりも夏の終わりの方が良いのかもしれない。それにしてもわたしは相変わらずメインシーズンからズレていて、前半も後半も、図らずもほとんど人のいない季節に歩くことになった。

谷川、苗場方面は雪予報。八ヶ岳は晴れ予報。このあたりはくもり

あっという間に標高2,000mを越える。ん~、いい稜線

 高沢尾根と名付けられた場所は、激しいアップダウンもなく、八ヶ岳が良く見えた。よし、だれも見ていない。ガッと鼻の穴を大きく広げ、冷たい冬の空気をめいっぱいにすう。ひとりじめだ。こっちもあっちもひとりじめ。この空気もひとりじめ。

秋冬の空は澄んでいて見通しが良い

 後半の旅は、とにかく美しい景色を見ることができた。晩秋ならではの景色だ。葉が落ちた枯れ木の哀愁、澄んだ空気、夏には緑に包まれた場所も見晴しが抜群だ。そんな風景を堪能しようと思って、ミラーレス一眼も持ってきた。

たとえば、こんな風に

赤い実さえも際立って見える

ムジナ平。みちしるべ、ってこんな感じかな

それはわたしのピークではない! 謎の地名連発とまさかの三往復

 次に、オッタテ峰という不思議な地名の小さなピーク。だけど地図を見るとオッタテ峰は、大高山の先だ。まだ大高山には着いていない。あれ? ムジナ平、カモシカ平のときて、ここはその次の標高1965mの名もないピークのはず。なぜだ。

確かにオッタテ峰と書いてある

ん?

Ottate no mine peak? オッタテノーマインピーク・・・?

 ちょいちょい。それじゃ峰峰になってるし。というか、英語圏の人が読んだら「オッタテ、わたしのピーク、ではない」だ。英語で読めるようにしたいはずなのにローマ字表記にすることの意味を問いたい。

んふっ

 ひとりで歩いていると、笑いの沸点が低い。どうでもいいことが面白くて後をひいて、歩きながらンフッとかムフッとか笑っているから結構気持ち悪い。

 2000mを越える頃、水たまりも凍りはじめた。このあたりはどうやら泥沼らしく、それが凍っていてラッキーだった。たまにずぼっと埋まっても、シューズは防水。なんてことはない。夏なら足首の上までどろんこだ。

パリパリだけど、上を歩けるほどは凍っていない

苔好き女子

 トレイルから草津白根山方面が見えていて、なんだ、あんな近くかという気分でのんびり歩いた(たいていそんなことはない)。ほとんど樹林帯がなく、ずっと景色がいい道ってなかなかない。夏にどのくらい緑が生い茂るのかはわからないけれど、見晴らしが抜群。標高2000m前後を100~200mくらいの差で上がったり下がったり、ゼェハァしないトレイルが心地いい。

自撮りの下手さもほどほどにしたい

 大高山から見下ろす県境稜線は、ゆるやかな笹尾根で、模型のよう。そういえば小さな頃から模型が好きだった。そんなわたしに親がお城の模型を買ってくれたりもしたけど、隣の部屋の姉に臭い臭いと嫌がられて完成することはなかった。いまでも博物館に行くと、再現模型の前で何時間でも座っていられる。それと山の上から見下ろす縮図は、なんだか通じるものがある。自分の見ている画角に世界がギュッと詰まっているのが、昔も今も好きなんだ。

曲線が不思議。県境稜線を挟んで植生が違うのも模様のようだ

 そういえば、どういうわけかオッタテ峰の先にもうひとつオッタテの峰があった。こちらは、オッタテ峰ではなくオッタテの峰らしい。ニアピン。地図を見ると、このあたりには、ダン沢とか大ナゼ沢とかガラン沢とかキノコ沢とかミドノ沢とか、なぜかカタカナの沢に囲まれていた。オッタテの峰というくらいだから、沢から見上げると目立つピークなのかな。

しかも二つ目の道標は、だいぶ朽ちている。なのにこちらが地図では正式

次の道標はさらに朽ちて・・・? 食われて・・・?

下りが急で、枯れた笹で何度も尻もちをついた

 人のいない森で、熊除けがわりにラジオではなくpodcastを流し、鼻歌まじりに調子よく歩いていたが、湯ノ沢の頭600m手前あたりで突然つまづいた。

あれ? 道がないな。

 藪で見えないだけかな?と思い腰くらいまである笹をかき分けかき分け、それらしい踏み跡を探して進んだら、藪の先にトレイルが見えた。

よかった! 出た!

 と、思ったらなぜかさっき歩いたばかりの道だった。どうも笹薮の中で方向がわからなくなってぐるりと戻ってきていたらしい。そんなことってある? GPSの記録を見たらみごとにウロウロしていた。

見事に3往復

 3往復ののちに、かなりわかりにくいところにトレイルに入る小道を見つけたが、地図からは逸れた場所にあった。GPS(国土地理院地図)どおりの破線のところにはトレイルが見つけられなかった。あとからぐんま県境稜線トレイルの公式マップを見ると、わたしが歩いた方のルートに実線がひいてあった。きっと崩落とか倒木とか何かしらの理由があって、いつからかこの道になったのだろう。国土地理院地図ってどのくらいのペースで更新されるのだろう、なんて普段あまり考えたこともなかったことを考える。長旅というのはだんだん考えることがなくなってきて、おのずと思考が広がるからいい。

緑が歩いたルート。トレイルは地図の破線から逸れた場所にあった

年代物の道標を頼りに歩く。旧道かなとも思ったが他に道はなさそうだ

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ライター
中島 英摩

ライター。テント泊縦走から雪山登山まで1年を通じて山に通う。趣味が高じてライターとなり、トレイルランニングの取材・執筆をメインに、国内外の長距離レースにも出場している。特技は走りながら取材すること。

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