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【連載】日本のロングトレイルを歩く vol.12 ぐんま県境稜線トレイル踏破録:序章「ハシからハシまで行ってみよう!」

(2018.10.24)

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 2018年8月11日、国民の祝日“山の日”。ついに「ぐんま県境稜線トレイル」が全線開通となりました。ご存知の方も多いと思いますが、その前日に県の防災ヘリが視察中に墜落するというニュースが飛び込んできました。この事故を受け、当日の開通式典などは中止となりました。群馬県は「このような事態になり非常に残念だが、トレイルとしては登山者の安全にしっかりと取り組む」とコメントしています。慎んで亡くなられた方々のご冥福をお祈りするとともに、このトレイルが末長く愛されつづけることを祈願します。
 さて、開通式から遡ることふた月ほど前の梅雨時にライターの中島英摩さんが、ひと足お先にこのトレイルに単独行でチャレンジしました。Akimamaではその模様を数回に分けてお届けします。今回はそのプロローグということで、スタート直前までを掲載。果たしてどんなトレイルが待っているのでしょう?


 ハシからハシまで、っていうのは実に響きがいい。ロマンがある。
 例えば、テトリスが一列まとめてドカンと消えると嬉しいし、プチプチをひとつひとつプチプチして一列潰すのはなんか楽しい。例えば、教室の外の廊下の隅から助走をつけてスライディングして一番向こう側の壁まで行けたヤツはその日一日ヒーローだ。例えば、回らない寿司屋で時価とか書いてあっても順に全部食べれるならそれは夢みたいな話だし、銀座の高級ブランド店で「ココからココまで全部くださぁ〜い」とか一度でいいから言ってみたいものだ(セレブタレントの口調で)。

 そんな、ハシからハシまで、にロマンを感じるのはどうもわたしだけではないらしい。「せっかくなら」という、何がせっかくなのかわからない状況でも、「とりあえず」的な感覚で言い出す思考回路の人がいる。群馬県庁に、おそらく、そういうわたしと似たような思考回路の人がいたのではないかと思う。

 キミは、ぐんま県境稜線トレイルを知っているか。群馬と新潟の県境のハシ『土合』を起点に、四阿山と浅間山の間である群馬と長野のハシ『鳥居峠』までを繋ぐ全長約100kmのトレイルだ。

群馬県境稜線トレイルを網羅するには、山と高原地図では3冊必要なほど。(ちょっと古いのはご愛嬌、新しいものを買いましょう!)

 群馬県と新潟県と長野県の県境は、険しい山々で隔たれている。国内最強、いや最恐の県境稜線と言っても過言ではない。これは最高の褒め言葉だ。

「エマちゃん、ぐんま県境歩いてみない?」

「キターーーーーー!」

 それが私の反応だった。ぐんま県境稜線トレイルにはかねてから興味があった。土合から反時計回りで馬蹄形を回るなど前菜に過ぎず、主脈縦走、三国峠から野反湖、志賀高原、草津白根、四阿山を越える。このとんでもなく険しい100kmを誰が取材しながら踏破しようというのか。それも、ひとりでカメラを持って「いってらっしゃい」。これは自分にもってこいの仕事だった。

 ぐんま県境稜線トレイルが全線開通すれば、現時点では日本国内で最大距離となる。8月に開通式を予定しているので、今まさに全力で整備が行われているのだろう(取材時は6月)。ロングトレイルは数あれど、整備区間が多いところ、実は舗装路が多いところなどもあり、これほどまでにトレイル率が高く獲得標高も大きく壮大なロングトレイルは国内初とも言える。

谷川山麓のコンビニでポスターを見かけたが、まだ知らない人も多い。

 まずは、家にある地図を広げて繋いでみた。山と高原地図ならば『谷川岳』『志賀高原』『浅間山』3つの地図が必要だ。繋いだ地図を床に置いてみたら、2/3まで広げたところで壁に当たった。決して私の部屋が狭いわけではない。長い。長すぎる。長過ぎて折り畳む度に破ってしまい、行く前にすでにボロボロだった。

 100kmなら走れば3日かとナメてかかったら、ちょっと健脚な普通のハイカーでも少なくとも1週間はかかる。

 コースタイムを計算する。5時間、6時間・・・10、11、12・・・18、19・・・おっと、いつまでたっても谷川連峰から抜け出せない。やっと主脈が終わったと思ったらその先にあるのは未開通区間だ。まだ整備中、つまりはバリエーションルートということになる。この辺りは山岳部の藪漕ぎメッカだと言われていて、検索すると山行記録がなくはないが、少しも進めずに撤退したとか、男性で胸ほどの藪を漕ぐとか、1kmに3時間くらいかかったなんていう話がゴロゴロ出てくる。すでに開通に向けて刈り払いが始まっているという噂も耳にしたが不確かだった。それに、水場が少なく停泊地も少ない。しかも梅雨と台風の季節。何度もチャンスを伺いながら、その時が来るのを待った。

 6月某日。
 天気予報が4日ほど晴れ予報になっている。行くしかない。急いで準備をした。最大5日分の行動食と水でパックウェイトは13kg。

並べ方が雑でインスタ映えしない。これにコンビニでおにぎりやパンを足した。

 荷物の重量、岩稜、バリエーション、朝露。目まぐるしく変わるハードコンディション、さすがにいつもの軽いトレランシューズとはいかない。シューズはSalomonにした。普段トレッキングシューズを履かないわたしにとっては重い登山靴は辛いがこれはトレランシューズに近く、逆に普段トレッキングシューズを履いている人にとってはトレランシューズはハードルが高いが、これなら試しやすい。

 早朝3時、土合橋。
 まだ空は黒い。ヘッドライトを点けて、登山口まで送ってくれたAkimamaスタッフに別れを告げ、わたしの挑戦は始まった。

ステビ(ステーションビバーク=駅で野宿)すると言ったら登山口まで送ってくれた。送迎付きだなんて超贅沢な始まりだった。

* * *

第一章につづく

(文・写真=中島英摩)

 
 
ライター
中島 英摩

ライター。テント泊縦走から雪山登山まで1年を通じて山に通う。趣味が高じてライターとなり、トレイルランニングの取材・執筆をメインに、国内外の長距離レースにも出場している。特技は走りながら取材すること。

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