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プロデューサーが語る! 焚き火タープの名品「ムササビウイング」誕生秘話

(2016.06.26)

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 tent-Mark DESIGNS(テンマクデザイン)で長年売れ続けているタープがある。

 堀田貴之氏がデザインしたムササビウイングだ。堀田氏は春〜夏はカヌーやシーカヤック、冬はテレマークスキーなど通年を通してすばらしく遊んでいる人で、日本国内をはじめ、世界各地でさまざまな人のお世話になりながら旅を続ける近年まれにみる遊行人である。

 ずいぶん前になるがご本人が数十張りだけを生産し、知人のプロショップなどで販売したというだけの幻のタープがあった。
 
 キャンプ道具をプロデュースする立場としては、ぜひこの名品を復刻して多くの人に使ってもらいたいと考え、ドキドキしながら知人から紹介してもらい堀田氏にアポイントをとった。
 
 知人いわく「ビールを飲ませておけば商談はうまく行く」などと言われたが、やはりそれはそれ。本当に真剣に話を聞いてもらった。

 そして堀田氏はひと言だけ口にした。

「ただお金を儲けるだけの目的では一切作らせない。私はこの道具に出会ったからこそ人生を踏み外した。そんな道具を一緒に作る気持ちはあるのか?」

 一瞬間をおき「ハイ、踏み外します」。

 今考えるとワケのわからない答えだったが、これで開発がスタートした。

 堀田氏が持っていた貴重なオリジナルモデルをお借りし採寸。工場にはまったく同じ形のものを作ってくれるように指示したが、生地は軽くて丈夫なシルナイロンを採用し、収納ケースはメッシュにするなど多少改良。「ムササビウイング13ft.SilNY“山旅”version」という名で、オリジナルからスペックアップしたものになった。
ムササビウイング13ft.SilNY“山旅”version

 ところが開発途中、たまたま自宅のクローゼットを整理していたらシェラデザインのマウンテンパーカーが出てきて、ふと「TC(コットンとポリエステルの混紡生地)で作ったら焚火に強いムササビウイングができるのではないか?」と思いついてしまった。

 すぐ堀田氏に電話し「TCで焚火に強いムササビを同時に開発しませんか?」とうかがうと、返事は「よし、作ろう」。

 すぐさま工場に連絡しTCの生地を取り寄せ、色を選定し生産をスタートさせた。これが「ムササビウイング13ft.TC“焚き火”version」の誕生秘話だ。

 防水性が気になり、試作品が手元に届くやすぐシャワーテスト。TCはポリウレタンコーティングはしていないが、素材自体に防水機能がありまったく水が漏れない。ポリウレタンコーティングとシーム加工をしていない、つまり「コーティングの加水分解、経年劣化が無い」、それは末永く機能を保持しながら使えるタープの完成ということになったわけだ。
ムササビウイング13ft.TC“焚き火”version

 そうして、これら正反対の素材のタープをふたつ同時にリリース。

 予想では通常の軽量なシルナイロン版が定番で売れるだろうと思ったが、実際はまったくその反対。このTC焚き火バージョンが売れに売れた。

 この焚き火バージョンの名前を考えたのも堀田氏。名前はこちらから何度も催促した覚えがあるが、この商品名でなかったら売れなかったかもしれない。やはりみんな焚き火が好きなのだ。

 翌年もっと軽量なニーズにも対応できるよう「トラベリングライト」も続いて発売。こちらも好評で今年新色も発売になる。
トラベリングライト

 発売して増えた問い合わせがある。

「正式な張り方を教えてもらえませんか?」「ポールの長さは何センチがおすすめですか?」

 堀田氏に電話し、
私「お客様から正式な張り方を教えて欲しいと問い合わせが多いのですがどうしましょうか?」

堀田氏「俺にも教えてくれないか?」

 さすがである。こんな返答には私はできない。電話を切りオンラインストアの購入ページにこう記載した。

「元々が自然の中で快適に過ごせるよう生まれた『ムササビウイング』はポールは木の幹やカヌーのパドル等、ペグは木の枝や岩、砂を詰めた袋等、場所に合せた道具や物を使って設営されていました。このコンセプトを受け継ぐ現代の「ムササビウイング」も最初からポールやペグは付属せず、ユーザーのキャンプスタイルに合わせて市販のポール・ペグをお選びいただくようお勧めしています」

 正式な張り方なんてなかったわけだ。使う人が考え、自分が快適にカッコよく張れればそれでいいのである。

 今はテントの前室として、カヌーツーリング、オートキャンプで使う人などさまざまな使い方でご利用いただいている。

 最新モデルはコットン100%の「ムササビウイング13ft.Cotton“焚き火”version」だ。焚き火に強いコットンバージョンはこれまでと比べるとやはり重いが、こちらもご好評いただいている。
ムササビウイング13ft.Cotton“焚き火”version
 TC焚き火バージョンやコットンバージョンは末永く使っていただける素材。ひと言で表せば「父親が使っていた焚火タープを息子が受け継ぎ新しい家族とキャンプをする」。そんな素敵な夢を実現させてくれる道具だと思っている。

 ムササビウイングの輪は広がり、今では「ムササビの夜」というイベントを開催するまでになっている。

 これからも少しずつ進化を重ね、いつまでも愛されるタープとしてみなさまにご提供できればと思っております。

テンマクデザイン・プロデューサー根本 学

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堀田貴之(ほったたかゆき)
1956年大阪生まれ。
日本国内をはじめ、世界各地でさまざまな人のお世話になりながら旅を続ける近年まれにみる遊行人。文筆を生業としているが、本人はブルースマンになりたがっている。
著書には「バックパッキングのすすめ」(地球丸)、北海道一周シーカヤック旅後悔日誌「海を歩く」(山と溪谷社)、旅のエッセイ集「タルサタイムで歩きたい」(東京書籍)、テレマークスキー旅紀行「テレマークスキー漫遊奇譚~転がる石のように」(スキージャーナル社)などなど。また、自然との新しいつき合い方を提唱する環境団体「(社)PIO(ポジティブ・インパクト・オーガニゼーション)」の代表でもある。

 
 
ライター
テンマクデザイン

2011年にアイアンストーブを発売しスタートしたアウトドアブランド。焚火と食をテーマに商品展開を行なう。堀田貴之氏をはじめ、小雀陣二氏など多くのコラボレーターとの商品開発を行なっている。

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