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昭和生まれにはぐっとくる。 ホシガラス山岳会『最高の山ごはん  歩いて作って食べた話と料理』

2016.11.22 Tue

柳澤智子 ライター、編集者

秋の夜長。週末の山行が待ちきれない方は平日、夜眠る前に読書を通じて
妄想登山をしませんか。しかも、おいしいレシピ付き。
今回紹介する『最高の山ごはん 歩いて作って食べた話と料理』
(ホシガラス山岳会/パイ・インターナショナル 11月21日発売)は、
山好きはもちろん、なぜか山に登らない人にまで売れているシリーズ。
『一生ものの、山道具』(道具)、『山登りのいろは』(登山ノウハウ)、『あたらしい登山案内 -趣味と気分で選べる山ガイド-』(登山ガイド)ときて、
第4弾のテーマはレシピ集。しかも、ただのレシピではありません!
群雄割拠状態の山ごはんレシピブックのなかでも、異色とも言えるこの本を担当した、小林百合子さん(フリーランス編集者、ホシガラス山岳会主催)に製作ウラ話を教えていただきましたよ。

まずは、表紙と中身をちらっとごらんあれ。


Akimama まず、ホシガラス山岳会について教えてください。

小林 8人の女性からなる山岳会です。私が、2010年から『Hutte』(山と溪谷社)という女性向け登山雑誌を編集していたのですが、その仕事で出会った方や山仲間と登山にいっているうちに結成した会です。

Akimama スタイリストの金子夏子さん、ヘアメイクの小池瑠美子さん、「and wander」デザイナーの森美穂子さん、料理研究家の山戸ユカさん、写真家の野川かさねさん、木作家のしみずまゆこさん、編集者の高橋紡さんがメンバーなんですね。

小林 そうなんです。海外のロングトレイル好き、岩場好き、縦走好き、低山好きと8人8様、山の楽しみ方も全然違うんです。これまで出した道具、登山ノウハウ、登山ガイドをテーマにした3冊の本も、ひとりずつ違う個性だからこそいろんな楽しみ方が表現できて、読んでくれた人もどれかのエピソードに共感してもらえたんだと思います。

Akimama 恋愛ゲームでタイプの違う女の子が、いろいろ出てくるみたいな感じですかね。

小林 そうそう、途中で違う人にグッときてもいい(笑)。

Akimama 小林さんが編集者として持っている価値観と、写真を担当されている野川かさねさんが切り取る世界観だと思うんですが、やっていることは本格的なんですが、実に詩的で文化的。このシリーズも、しっとり文化の香りがする雰囲気の本でしたけど、今回もさらにじっとりした内容ですね。

小林 え!今までにないポップな仕上がりと思っていて、じっとりとは心外なんですけど……(動揺)。

Akimama え!!そうでしたか! ほら、山のレシピブックって簡単、便利、掲載レシピ数を売りにしたものが多いので、そのなかでは異端というか、あまりなかったレシピブックの体裁というか……(さらに動揺)。

小林 そうですね、確かに実用的な方が喜ばれますよね。山で食べるものって家よりも何倍もシビアなものですから。山のレシピコーナーって書店でもしっかり棚が作られていて、ありとあらゆるテーマがすでにカバーされているんですよ。コンビニで調達できる食材やおつまみ、山だけど体にいいもの、縦走の無駄のない献立、フライパンだけでできるレシピとかね。何がおもしろいのかわからなくなって、渋谷のパルコブックセンター(今は休業中)の山コーナーの前で、どうしたもんかと、立ち尽くしていたんですけど。4ヶ月ほど悩んで、なかなかスタートラインにすら立てず、関係者からどやされるという……。

Akimama 同業として心中お察しいたします。このアンソロジー形式のレシピブックになったのは、どういった経緯なんですか?

小林 野川さんと山のロケで「寒いー、しんどいー、ラーメン食べたいー」と言いながら秋の八ヶ岳を歩いていたんですよ。もう、体はマルちゃん製麺を欲しているわけですよ。そのときふっと思ったんですが、山で食べるものってその時一緒にいる人や天気、季節、疲労度、メンタルにかなり左右されるし、後々覚えているごはんはたいてい辛かった時に食べたものなんですよね。テントが大雨で洪水になったときに作った素ラーメンとかね。それでごはんの話を聞けば、もしかしたら思い出が出てくるのかなと、ホシガラスの面々に「おいしかったもの」ではなく、「思い出に残っているもの」としてインタビューしたんです。

Akimama ふーむ。これもメンバーそれぞれ山行スタイルが違うから、食べているものも違うんですね。レトルト食品を極力使わずにジョンミューアトレイルを旅した山戸さんの20泊21日の献立や、心配性の小池さんが作った万が一遭難した時のための豚汁、カメラ機材が重いため極限まで食材を減らす野川さんのミニマムレシピ、高橋さんの山頂誕生会、金子さんのおしゃれクスクスカレーなど、人の食卓を覗き見にしているみたいでおもしろかったです。あと、小林さん自身のエピソードにあった日本酒をドボドボ入れた雪見常夜鍋。冬山で寒さのあまり、豚肉と白菜の鍋に酒を入れすぎたというのに、「酒を飲む手間が省ける鍋だ」「合理的だ」という酔っ払いコメントに笑ってしまいました。年末年始は実家に帰らず、山小屋で迎えるという話も。

小林 私も編集していて楽しかったですよね。このシリーズの読者アンケート情報によると、登山をしない人も買ってくださっているらしいんですよ。思うに寝る前にベッドで読んで、妄想登山をしてくれているんじゃないかと。

Akimama 確かに拾い読みできる短いエッセイと、ときどき出てくる小林さんの関西人気質にじみ出るキャプション。寝る前に、数ページだけじっくり読みたい本ですね。また、山登りする人の定番「棒ラーメン」の本当においしい作り方指南や、山戸ユカさんによる再現レシピのクオリティの高さ。すぐに試したくなるレシピも満載で、実用面でも充実でした。

小林 棒ラーメンってちゃんと作ると、すっごいおいしいんですよね。山戸さんがみんなの話をもとに再現してくれたレシピも、体によく、山に持って行く工夫があって、とてもおいしかった!

Akimama 本の中央にある、道具や食材のグラビアページも必読ですね。昭和感たっぷりで。

小林 デザインのコンセプトが「買った時から古本」なんです。このあたりのデザインの感覚は、デザイナーの米山奈津子さんが神がかってましたね。巻末の「Smoking Room」というページも、往年の山岳雑誌を彷彿とさせる昭和テイストですので、ぜひ全ページゆっくりと読んでいただければと思います。

Akimama このホシガラスシリーズ、ほかの3冊もとても独特の内容でオススメです。うわさによると、4冊コンプリートボックスがあるとかないとか?

小林 専用の箱に入れられたら最高ですよね!

小林百合子(こばやし・ゆりこ)
編集者。1980年兵庫県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、アラスカ大学フェアバンクス校で野生動物学を学ぶ。出版社勤務を経てフリーランスに。山岳・自然をテーマに雑誌や書籍の編集を手がける。2010年に女性向け登山雑誌『Hutte』(山と溪谷社)を立ち上げ、女性らしい視点で登山や自然の楽しみ方を提案した。著書に『山と山小屋』 (野川かさねと共著、平凡社)、『一生ものの、山道具』『山登りのいろは』『あたらしい登山案内 -趣味と気分で選べる山ガイド-』(ともにホシガラス山岳会著、パイ・インターナショナル)など。

柳澤智子 ライター、編集者

フリーランス編集者・ライター。食・住・自然・手仕事を主なテーマに、雑誌、書籍を手がける。アウトドアのいろはは、akimamaの運営母体である「キャンプよろず相談所」に所属したことで鍛えてもらいました。出版ユニットnoyamaの編集担当としても活動。著書『住まいと暮らしのサイズダウン』(マイナビ出版)が発売中。

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