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【DISCOVER JAPAN BACKPACKING】桜島、開聞岳、硫黄島。九州の山をつなぐ秘密。南九州火山探訪・後編

(2018.06.15)

登山のTOP

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日本人に親しまれてきた「山」をみつめなおす
「DISCOVER JAPAN BACKPACKING」。
第一弾の舞台は、今なお新しい山が生まれる南九州。
グレゴリーを背負った案内者と共に
より深く、日本の山を知る旅へ。


■前回までのあらすじ
山の生まれる場所を見るために訪れたのは、九州本土の南に浮かぶ火山島「薩摩硫黄島」。この島に住む地質の研究者大岩根さんを案内人に迎えて、硫黄島の火山を見たあとに向かうのは、鹿児島のシンボルである桜島と開聞岳。海を隔てたこれらの山々と硫黄島には、深い関わりがあるという……。

「山の生まれる場所、薩摩硫黄島へ 。南九州火山探訪・前編」はこちらから!

■桜島、100年の森へ

 鹿児島港で「フェリーみしま」を降り、レンタカーを手配して車ごと再びフェリーへと乗り込む。しかし、今度の船旅は15分。鹿児島港と桜島港は目と鼻の先だ。

 桜島フェリーの船首は船尾でもあり、船尾は船首でもある。つまり、前後が対称なのだ。鹿児島港を出た時の船首は桜島港を出るときは船尾になる。『ドリトル先生』に出てくるオシツオサレツみたいな船だ。

 年によっては1000回近く噴煙を上げるという桜島は、この日も平常運転。ボフ、ボフと噴煙をあげ、空気には灰が混じっていがらっぽい。
 
 桜島もまた巨大なカルデラの際にできた火山だ。桜島を擁するのは「姶良カルデラ」。約2万9000年前に巨大噴火を起こし、噴火によって生まれた大穴に海水が流れ込んで錦江湾の湾奥部を成している。

 このときの噴火は強烈なもので、四国以西は壊滅的な被害を受けた。姶良カルデラの火山灰は遠く北海道にまで届いたことがわかっている。

 こんな噴火によって誕生したことから、錦江湾は内湾にも関わらず水深が200mを超える場所もある。日本のなかでも特異な海だ。

 桜島港へ着くと、大岩根さんは観光客が連なる散策路へと歩き出した。道の脇には「日本一長い」という足湯。足を浸けた観光客たちは、時折あがる噴煙を背後にして自撮りに忙しい。大岩根さんによれば、ここに見るべき風景があるのだという。

「今、私たちが歩いているのが1914年に起きた大正噴火で流れ出した溶岩です。溶岩が固まりつつひび割れながら流れ下ったので、荒々しい光景になっていますよね。桜島の溶岩は比較的粘度が高いんです。大正噴火のあとに起きた1946年の噴火では、流れる溶岩でタバコに火を着けたり、溶岩が家に到達する前に家を解体・移築した人もいたそうです」

 大正噴火から100年が過ぎ、大正溶岩の上には若い森ができつつある。岩の隙間に溜まった土を苗床にして、枝を伸ばしているのはクロマツ。これからさらに時が過ぎれば、クロマツの森はしだいに照葉樹林になっていくだろう、と大岩根さん。

 それでは、もっと近くで山をみてみましょう、と連れ出されたのは湯之平展望所。桜島の新旧の山体を間近に望む展望台だ。入り口の案内板には「最寄りの退避濠」が示されていたが、ここから濠までの距離は4.9km。それに対して展望台から火口の距離は3km。桜島が本気を出したら、僕らが壕に入るまでに火口から噴石が届いてしまうだろう。

退避壕まで4.9km。ええっとこれはつまり、覚悟しろよってことですね?

「桜島の魅力は、噴火から移り変わる自然をいくつも見られることです。山体を見てください。向かって左側、古い時代にできた北岳は風雨で深く侵食されていますが、向かって右側の近年盛んに噴火している南岳は、北岳ほど侵食されていないんです」

 麓に目をやると、古い時代の噴火の噴出物や扇状地の上には照葉樹森や畑が広がっているのに、大正噴火の溶岩の上は今やっと土が生まれ、森になりつつある。こんなふうに火山の時間軸と火山に生きる人間の時間軸を同時に見られるのが、桜島の魅力だ、と大岩根さん。

 桜島と人の関係性をよく表す場所がある、と大岩根さんが車を走らせた先が桜島の北東部にある黒神集落。大正噴火の際、この一帯には軽石や火山灰が2mもの厚みで積もり、多くの家屋が軽石のなかに埋もれたという。

「ここにあるのが有名な黒神埋没鳥居。今では鳥居の上部しか出ていませんが、この鳥居も元はきちんとくぐれる鳥居でした。それが桜島から出た軽石によって埋まってしまった。私たちは今、その軽石の上に立っている、というわけです」

 くぐれない鳥居をかわして、参道は森の奥へと伸びている。進むにつれて参道が切り通しのようになっているのは、参道と本殿を火山灰のなかから掘り上げたからなのだろうか。本殿の前に着いた大岩根さんはさっと手を合わせると、何者かに祈りを捧げた。

「大正噴火からおよそ100年。桜島につながるマグマだまりには、すでに大正噴火が起きたときと同じ程度のマグマが蓄積されたと考えられています。桜島と周辺の地域では次の噴火に備えてスムーズに避難するための訓練が重ねられています」

●開聞岳 南九州の火山を見下ろす展望台

 3日目は車を走らせて南へと向かう。鹿児島市から1時間半ほど走ると、田んぼの間に目を引くシルエットの山が見えてきた。日本百名山のひとつ、開聞岳だ。開聞岳山麓にある池田湖で車を停めると、大岩根さんは語り出した。

「この池田湖もカルデラ湖で、約6,400年前の噴火で形成されました。そして、その向こうに見える開聞岳が成長を始めたのは約4,400年前のこと。開聞岳は、比較的新しい山なんです。開聞岳は約2,500年前にほぼ現在の形になりましたが、有史以降も記録に残る噴火を起こしています。じつは今でも噴火の可能性がないわけではありませんが、今回訪れた3つの山のうちでは唯一、登山が許されています。登ってみましょう」

 車を山麓の運動公園に停めて登山口へと向かう。マツやコナラの茂る雑木林のなかを登り、2合目、4合目、5合目と標高を稼いでいくが、南国の旺盛な植物に阻まれて、なかなか視界は開けない。 

 その秀麗な山容を反映してか、登山道にはほとんどアップダウンはない。一定の勾配で少しずつ高度を上げていく。

 ときおり、木々の間からのぞく麓の様子で、登山道が山腹を螺旋状に登る道であることがわかる。いくつかの鎖場を超えて、岩肌が露出しはじめた場所でようやく眺望が開け出した。

 周囲の木々が、潅木と呼べる高さになったところでひょっこり岩場へと飛び出した。標高924m。開聞岳の山頂だ。

 北を見れば、池田湖の向こうに昨日訪れた桜島が噴煙を上げているのが見える。南を見れば青い海の向こうに硫黄島が浮かんでいる。

「ああ、これはいい天気の日に登れましたね。南九州の火山の多くを見渡せる」

 そういうと大岩根さんは、この旅の種明かしをしてくれた。

「まずは北を見てみましょう。足元に広がるのは池田湖。その奥には煙を上げる桜島が見えています。ここからは見えませんが、桜島の北側には霧島山、そのまた北側には阿蘇山がそびえています。それでは、南を見てください。霞んではいますが、薩摩硫黄島が見えます。今日は見えませんが、その向こうには数年前に大きな噴火を起こした口永良部島が浮かんでいます。さて、ここで何かに気づきませんか? 九州の主要な火山は、ほぼ一直線に並んでいるんです」

 九州の火山が一直線に並んでいるのには理由がある。日本列島は大陸プレートの上に乗っており、この大陸プレートの下には、常に海洋プレートが少しずつ潜り込んでいる。水を多く含んだ海洋プレートが地下110kmほどの深さに到達すると、岩が含んでいた水がマントルの溶融温度を下げ、マグマを作り出す。周囲の岩よりも軽いマグマは上へ上へと上昇して地上へと現れ、火山を作り出す。

「こんな理由から、日本の主要な火山は海溝と平行に分布します。海溝と平行に分布する活動的な火山帯のうち、もっとも海溝側に近い火山列を火山フロントと呼びますが、今回めぐった山々はみんな火山フロントに沿って並んでいるんです」

 7,300年前に九州を壊滅させた鬼界カルデラ。日常的に噴火しながらも麓の人々に愛される桜島。噴火から数千年を経て、緑に覆われつつある開聞岳。それぞれの山に、それぞれの物語があった。横顔の異なる山々をめぐりながら、大岩根さんは何を考えていたのだろうか。

「地質や地形の意味がわかるようになると、景色が変わります。なんといいましょうか……。今そこにある風景に加えて、流れてきた時間も合わせて見るような感覚でしょうか。岩や山を見ることは、その地域の重ねてきた歴史を見ることなんです。九州の山々は、本州に比べてそれほど高くはありませんが、流れた時間を見るフィールドとしては魅力的です。九州を訪れる際はぜひそんな視点も意識して山を見たり、登ったりしていただきたいですね」

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ライター
藤原祥弘

採集系野外活動を中心に執筆とワークショップを展開。著書に『海遊び入門』(小学館・共著)ほか。好きな獲物はカンパチとノコギリガザミ。twitterアカウントは@_fomalhaut

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