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【山ヤの子育て】親子登山10座目・褒めるってむずかしい

2021.05.28 Fri

まつだ しなこ

まつだ しなこ 子連れハイカー

ご褒美が山登りのモチベーション?

 やさしい響きをもちながら、じつは呪いのようにじわじわと心を曇らせる言葉がある。娘にとってそれは「がんばったね、ごほうびだよ!」だった。

 まもなく3歳になる娘が自分の足で山を歩くようになってから、何度この言葉をかけてきたことだろう。疲れたからもう歩けない、と座りこむ娘に「じゃあ、次のベンチまで行ったらおやつにしよう」と声をかける。そして、ぶつぶつ言いながらも歩ききった娘に、つい、ごほうびと称しておやつをあげる。何気ないこのやりとりの繰り返しが、まっさらな気持ちで山に望んでいたはずの娘の心を曇らせていることに、最近気がつきギョっとした。

 山登りをしていると、なにかと娘が

「がんばったから、ごほうびちょうだい!」

 とお菓子をせがむようになったのだ。

【山ヤの子育て】親子登山10座目・褒めるってむずかしい 宝登山 蝋梅 ロウバイ 長瀞 秩父「もう歩けなーい!」と進むことを拒否されてしまうと、ついつい、お菓子でつってしまう。最近ではお菓子が欲しくて、わざと座り込んでしまうことも。

 自然のなかでこそ感じる爽快感や、山頂に立ったときの達成感を幼いころから体験することが、山好きになるために大切だと思い、続けてきた親子登山。それなのに、娘のやる気を奮い立たせるために “ごほうび” という安易な手法を使うことで、いつの間にか、褒められることやごほうびをもらえることが登山のモチベーションにすり替わってしまいそうになっていた。

 よかれと思ってかけていた言葉なのに。褒めるって本当にむずかしい、と子育てをしているとつくづく思う。


山ヤ流、親子登山のルール

 もう一度、娘に曇りなきまなこを取り戻して欲しい、と思い、私のなかで親子登山中のルールを考え、実行することにした。私は育児のプロでも、登山のプロでもない。なので、自分がまだ山登りの初心者だったころ、山では圧倒的強者だった夫に必死でついていくときに、どんなふうに接してもらえたらうれしかったか。そんなことを思い出しながら、考えたわが家独自のルールだ。

1)お菓子をごほうびにしない
 いままではお菓子を親がもち、食べるタイミングも親が提案していたが、もう自分でバックパック(ザック)を背負えるようになったので、自分で持たせることにした。そして、ごほうびではなく、行動食であることを伝えて、事前に確認した量の範囲内であれば自分で食べるタイミングを決めてよいのだ。

【山ヤの子育て】親子登山10座目・褒めるってむずかしい 宝登山 蝋梅 ロウバイ 長瀞 秩父「疲れた」といったら、娘のペースで立ち止まって休憩。お菓子タイムもお任せする。適度な距離感と、適度なサポートが、育児では本当にむずかしい。

2)評価をしない
「すごいね」「偉いね」という行動を評価する言葉は育児中によく使ってしまう。しかし本来、山ヤが山を自分の足で歩くことは、だれかに評価されるためにすることではない。そこで、“評価する” のではなく “認める” 表現を心がけるようにした。転んでも泣かずに立ち上がったときは「偉いね」ではなく、「転んでも自分で立ち上がったね」。頂上に立ったときは「すごいね」ではなく、「自分で最後まで歩けたね」。その声かけに「うん!」と頷くときの娘の表情は充実感に満ちている気がする。

3)親の気持ちを中心に伝える
 自分(親)の気持ちを声に出すこと。これがいちばん簡単だ。たとえば「山に来ると生き返る〜」「空気がおいしいなぁ」「お母さん、お山が大好き!」と、心に浮かんだ言葉をどんどん声に出す。娘に共感してもらう必要はない。とにかく、お母さんはいま、家族と山にいるこの瞬間が最高に幸せなのだ、ということを言語化するようにした。


約4時間を最後まで歩き通した、ロウバイ(蝋梅)の宝登山(ほどさん)

 そんなわが家の新ルールを胸に、今回向かったのは秩父の長瀞にある標高497mの宝登山だ(登山時は2月末)。

 山頂に広大なロウバイ園や梅百花園があり、2月末にはロウバイが咲き乱れ、風が吹くと花の甘い香りを感じることができる。ロープウェイを使えば山頂まで5分で到着するということもあり、開花の時期は多くの人で賑わう観光名所だ。

【山ヤの子育て】親子登山10座目・褒めるってむずかしい 宝登山 蝋梅 ロウバイ 長瀞 秩父山頂ではロウバイの向こうに長瀞の山並みを望むことができる。山頂に楽しみが待っているので、自然と坂を登る足取りも軽くなる。

 宝登山ロープウェイ駐車場(有料)に車を止め、トイレに立ち寄ってから登山スタート。多目的トイレもあるのでオムツ交換をここですることができる。

 ハイキングコースは大人の足で往復コースタイム約2時間、5㎞ほどのコースだ。山頂までずっと整備された緩やかな登り坂なので、子どもでも安心だ。

【山ヤの子育て】親子登山10座目・褒めるってむずかしい 宝登山 蝋梅 ロウバイ 長瀞 秩父頭上を通り過ぎるロープウェイに手をふり登山開始。道幅も広く、犬を連れた人も多い。

 歩きやすいぶん、前回の青梅丘陵ハイキングコースのように飽きてしまうかと心配したが、宝登山ハイキングコースは、意外にも親子登山にうってつけのコースだった。随所にメインコースを外れショートカットできる小径がある。この小径の分岐にきたら「お母さんとどっちが早いかな?」と、0歳の息子をベビーキャリーで背負いメインコースを行く私と、小径を行く父と娘にわかれて進む。

【山ヤの子育て】親子登山10座目・褒めるってむずかしい 宝登山 蝋梅 ロウバイ 長瀞 秩父藪漕ぎデビュー。「負けないぞ!」と、背丈より高い笹藪のなかをズンズン進んでいく。

 このゲーム感覚がとても楽しかったのか、一度も座り込むこともなく、一度も抱っこをせがむことなく、山頂まで自分の足で歩き切ったのだ!「お山の頂上まで行ったら、お花があるよ」という、子どもにもわかりやすい目的があったことも、登頂成功の要因だったかもしれない。

【山ヤの子育て】親子登山10座目・褒めるってむずかしい 宝登山 蝋梅 ロウバイ 長瀞 秩父「疲れた」とお父さんに甘えながら、足をさすってもらう娘。この小さい足で、よく歩き通したなぁと感心する。

 山頂でお昼を食べ、ロウバイを楽しんだあとは下山開始。もちろん、歩いてだ。

 下山時も多少歩くことに飽きつつ、棒を拾い集めたり、落ち葉を頭からかぶったり、自分なりに遊びをみつけながら道を進んだ。

 そして、なんと、登山口に戻る最後の一歩まで、抱っこされることなく自分の足で歩き通したのだ。距離にして4.4㎞、歩行時間は3時間ちょっとだ(休憩込みで4時間だった)。3歳児にしては快挙だと、わが子ながら誇りに思う。

【山ヤの子育て】親子登山10座目・褒めるってむずかしい 宝登山 蝋梅 ロウバイ 長瀞 秩父砂だらけ、泥だらけ、葉っぱまみれになるのが大好きな娘。汚れることを臆することなく育って欲しい(自然のなかでは……)。


山で伝えたい、いちばん大切な言葉

 なぜ山に行くのか、という質問をいままで何度もされてきたが、その都度答えに困ってしまう。わざわざ体に負荷をかけ、つらい山道へ嬉々として出かけていくのは、だれかに褒められるためでも、ごほうびをもらえるからでもない。

「ただもう、楽しくて行きたくなってしまうんだ」

 というのが、唯一の答えかもしれないのだが、なぜ楽しいのか、それを山に登らない人に説明するのはむずかしいものだ。

 そんな、理由もなく大好きなことに夢中になる気持ちを、娘には知って欲しいと思ってきた。それなのに “ごほうび” とは、なんとも偉そうな態度だったなぁと、反省だ。

 ときどき文句を言ったり、座り込んだりしながらも、いっしょに歩んでくれる娘にかけたいいちばん大事な言葉。それは「えらいね」でも「すごいね」でもない。「いっしょに山にきてくれて、ありがとう」、そのひとことに尽きるのだ。


 

しなこさんの、パパママへのアドバイス
お菓子は子どもに持たせることが基本ですが、山頂での楽しみも欲しいところ。ゼリーやジュースなど重たいものは、親のバックパックにしのばせておくとよいでしょう。


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