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ホーボージュン アジア放浪4カ国目 モンゴル前編「我、草原の風とならん」

(2016.08.19)

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All photo by Yuriko Nakao

私たちが暮らす「アジア」を眺めてみると、

まだ知られていないトレイルが方々に……!

世界中を歩きめぐってきたサスライの旅人ホーボージュンが

そんなアジアへバックパッキングの旅へ出た。
連載最後の国は大草原と遊牧民の国・モンゴルへ!

 

ホンゴル色とフレン色

「ジュン、これがアンタの馬だ」

 そういって遊牧民のチンゾリク青年から手綱を渡されたのは、明るい栗毛色をした牡馬だった。

「こいつは若くてパワーがあるから、前へ前へとよく走る。そのかわり性格にムラッ気があるからしっかりコントロールしろ」
 
 腹帯の締め具合を調整しながらチンゾリクは僕にそう言った。

「わかった。この馬の名前は?」
「ホンゴル」
「どういう意味なの?」
「馬の毛の色だよ」

 ホンゴルの隣にはよく似た栗毛色の馬が繋がれていた。

「そいつはフレンウレー。フレン色の馬って意味だ」

 僕にはホンゴルもフレンウレーもまったく同じ色に見える。でもチンゾリクに言わせると「なに言ってんだよ。ぜんぜん違うじゃないか」ということだ。

 モンゴルの遊牧民は馬の毛色について何十種類もの呼び名を持っていて、すべての色を正確に区別することができる。それほど彼らと馬との関係は近く、そして深いのだ。

「ホンゴル、よろしくな」

 栗毛色の鼻を拳でゴシゴシ擦ると、ホンゴルは気持ちよさそうに僕の胸に顔をすりつけてきた。ファーストコンタクトは上々だ。どうやら僕らはうまくやっていけそうだった。

「よし、じゃあ出発しようか」

 チンゾリクの合図で鞍に上がる。そのとたんグッと視線が広がり、一気に遠くまで見渡せた。鞍上から眺める草原はまるで海のようだ。さあ、いよいよキャラバンの始まりだ。

我、草原の風とならん

 見渡す限りの大草原。野性馬にまたがり広大な草原を駆け巡る。視界を遮るものはなにもなく、動くものは白き雲のみ……。小さい頃から憧れていたのがそんなノマド(遊牧民)たちの暮らしだった。

 だからこの「Asian Hobo Backpacking」の最後の国となる今回は、ちょっと足を伸ばしてモンゴル国を旅先に選んだ。草の海を漂い、星の頂に登る。それが今回の旅のテーマだ。

 子どもの頃の夢とはち切れんばかりの期待を胸に、7月のよく晴れた日、僕はモンゴル国の首都ウランバートルに降り立ったのである。

 ところがどっこいぎっちょんちょん(またもや)。

「なんだここは?ロシアかよ?」

 ウランバートルに入って一番驚いたこと。それは僕が抱いていたモンゴルのイメージと現実との大きな乖離だ。違和感を抱いた点はたくさんあったが、その最たるものがキリル文字だった。「Д」や「й」のようなロシア語で使われるアレである。看板や道路標識がぜんぶ「Монгол」とか「Улаанбаатар」なんて感じなのだ。

 蒙古や成吉思汗のイメージが強いせいか、僕はてっきりモンゴル語って「筆書きの縦書き」だと思っていたのだが(じっさい昔はそうだった)、1924~90年の社会主義国家時代にソ連の強い影響を受け、モンゴル語のキリル表記が進められた。そしてそれは民主主義国家となった今もすっかり定着してしまっているのだ。

 そんなロシアっぽい街中で、ひときわ目を引く看板があった。真っ赤な看板にまっ白い髭のメガネおじさん。そう。ケンタッキーフライドチキンである。

「最近モンゴルではKFCが大ブームなんですよ。どんどん店舗が増えていて、若者のデートスポットとしても人気です」と現地コーディネーターのマハさんが教えてくれた。

 何世紀ものあいだモンゴル人は「五畜」と呼ばれる牛、馬、羊、ラクダ、ヤギの肉を食べてきた。遊牧生活に向かない鶏や豚は本来はモンゴル高原にはいなかった。「しかし定住化と外食産業の影響で、最近は普通の家庭でもチキンを食べるようになりました。つい最近ウランバートルにモンゴル初の大型養鶏場ができたんですよ」とマハさん。
ウランバートルの人口は約135万人。全国民の半数近くが暮らす極端な一極集中都市だ。ガラス張りの青いビルはモンゴルで一番高級なマンションで最上階には元横綱・朝青龍が住んでいる(らしい)。右がコーディネーターのマハさん

 食生活だけではない。ファッションや文化も急激に西洋化、近代化しているそうだ。ご多分に漏れずここでも若者たちはスマホに夢中で、あちこちで歩きスマホをしていた。「ポケモンGO」はまだ上陸してないが、Facebookはすでに都市生活のデフォルトになっている。

「今日はKFCで友だちとランチでーす!」
「やっぱりスーテーツァイよりカフェラテだよねw」

 そんなリア充自慢、オレは見たくないぞ。

 ちなみに「スーテーツァイ」というのは煮出した黒茶にバターとミルクを入れたしょっぱい乳茶で、遊牧民の代表的な飲み物だ。空気が乾燥して強い陽射しの照りつける高原ではこのお茶で水分と塩分、そしてビタミンの補給をする。しかし都市部では日本同様「カフェブーム」が巻き起こっていて、スーテーツァイよりコーヒーを好む人が増えているらしい。

「なんだよー。モンゴル、おまえもかよー」

 自国のことは棚に上げて、がっかりする日本人なのであった。

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ライター
ホーボージュン

全天候型フリーライター。6,000mの高所登山からシーカヤックの外洋航海まで、フィールドとスタイルを問わない自由な旅を続けている。『山と渓谷』『ビーパル』『PEAKS』『Field Life』などアウトドア各誌で連載中。公式Twitterアカウントは「@hobojun

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