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<著者に聞く>人生最大のDIY!マイホームを自分で建てる。阪口 克『家をセルフでビルドしたい』

(2019.01.08)

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多くの人にとって、人生最大の買い物となる「家」。そんなマイホームをDIYで建てたのが阪口 克さんだ。職業は世界の辺境を旅するフリーランスカメラマン。アウトドアやDIYをテーマに取材を続けてきたとはいえ、0からの家づくりはもちろん未体験だった。

土地の選定から完成までに要した時間はなんと6年! 家族や友人たちと取り組んだ家づくりの模様を『家をセルフでビルドしたい』(文藝春秋)としてまとめた阪口さんに、その一部始終と裏話を聞いた。

阪口 克(さかぐち かつみ)
世界を旅して本を作る編集ユニット「人力社」同人。旅行作家中山茂大との共著で『笑って古民家再生!!』(山と溪谷社)『世界のどこかで居候』(リトルモア)などを発表。右下の写真で左側に座るのが、人力社の相棒中山氏。現在、ツイッター(@katumi_sakaguti)でセルフビルドのこぼれ話と耳寄り情報を発信中。
 

●最初の作業は土地探し! 300坪で1200万
 一緒に仕事を続けてきた相棒・中山茂大の家は、リフォームした古民家。そのリフォームを友人たちと手伝ったことと、仕事でDIYの現場をめぐっていたので、家づくりの作業についてはぼんやりイメージができていました。

 そろそろマイホームが欲しいと思ったときに、嫁に『自分で建ててみない?』と提案したら、これにまさかのOKがでた。そこから家の図面作りと、土地探しが始まりました。

 条件は最寄りの駅まで徒歩10分以内であること、都心まで2時間で出られること、敷地は300坪あること。

 1000万を限度に関東近郊で土地を探したところ、埼玉県の長瀞町に1200万で288坪という土地を見つけました。良い土地だったので即決しましたが、予算はだいぶオーバーしちゃった。これによって、仕事をして入金があるたびに生活費を引いて、残りで資材を買ってちょっとずつ建てるという生活が始まりました。

 間取り図の作成に使ったのは『3Dマイホームデザイナー』というソフトでした。これでカチカチ間取りを作ると、自動的に必要な柱などを追加してくれる。

 この図面をもって建築士に相談に行き、正確な図面を作って建築確認申請を行ないました。地域によっては、建築確認申請がなくてもよいのですが長瀞町は条例で申請の提出が義務付けられていたんです。

 家のセルフビルドにはOKをもらえましたが、嫁からは『基礎はプロにお願いする』という条件を出されていました。仲間の家をリフォームしたとき、縦、横、水平の精度がいいかげんな基礎を作ってしまい、その後の作業に難儀したことを彼女は知っていたんです。そのため、基礎は専門の業者にお願いしました。これ以外に外部にお願いしたのは、電気と水道管の引き込みだけ。あとは自分で建てています。「電気と水道の引き込み作業はあっという間。布基礎は100万円かかりましたが、そのおかげでがっちりしたものに。次回があれば、次は基礎も自分で作ってみたい。たぶん、30万円くらいで作れるはず……」

 

●道具と技術はネットで入手
 建築に使った工具類は、中古を中心に集めたので購入費用は20万円程度でしたね。活用したのはネットオークション。数週間も網を張っていれば、必要なものは大抵手に入ります。

 ホームセンターでアマチュア向けの新品を買うくらいなら、断然プロ向けを中古で入手するのがおすすめです。多少古びていても、プロ向けの道具は耐用年数も精度も段違い。加工するものがmm単位で精度が出せないと、パーツがぴったりおさまらないので道具はいいものが必要です。「頻繁に活躍する丸ノコは、刃の長さちがいで2丁あると捗ります」

 建築の教科書にしたのは氏家誠悟さんの『自分でわが家を作る本』(山と溪谷社)。セルフビルドのバイブルというか、教科書となるのはこの本くらいしかないんです。細かい技術のお手本にしたのはネット上にある大工さんのサイトや動画でした。『自分でわが家を〜』を読んで概要を把握し、細かい技術はプロ向けの技術書を引き、わからなければネット動画を確認する。今ではネット上にお手本がたくさんあるので、本よりも簡単に、感覚的に学べますね。

 

● 頼りは材木屋さんとご近所さん
 大型のホームセンターでは建材も買えますが、セルフビルドするなら、地域の材木屋さんと仲良くなることをおすすめします。家一軒ともなれば材料も大量になるし、そうなるとホームセンターで買うよりも安くなる。

 また、材木屋さんは材木以外の建築資材を取り扱っていたり、そのほかの資材屋さんとのつながりもある。ツテのない資材は、材木屋さんを通じて用意してもらうことで、一見の客では買えない価格で入手することもできました。

 ご近所さんの力も侮れません。田舎でのセルフビルドは目立ちます。作業をしているといろんな人が冷やかしにやってきます。本当に冷やかすだけの人も多いのですが、中には道具や技術を提供してくれる人が現れる。

 私の場合は石材屋さんのご近所さんに薪ストーブの周囲に敷く石材を提供してもらったり、また別の人からはパワーショベルを借りたりしました。困っていれば、どこからか助けがやってくる。特に子連れで移住を計画する人は、何かと世話をやいてもらえると思います。「パワーショベルは水回りの配管の埋設に活躍。いただいた御影石は薪ストーブの周囲に貼りました」

● セルフビルドのメリットとデメリット
 利点はなんといっても費用が抑えられること! 私の場合、土地代で1200万円、そして家の建築費で560万円ほどでした。

 セルフビルドだと一般的なハウスメーカーと比べて、ぐっと価格を抑えられるうえ、ハウスメーカーよりもよい材料が使えます。わが家は柱も梁も太く、床も天井も無垢の板。壁には漆喰を塗っています。その点、ハウスメーカーの家では、柱は細いし床は集成材に化粧をしたものになる。壁は合板や石膏ボードに目隠しで壁紙を貼ったものでしょう。「子供部屋にはとくに良い材を使いました。無垢の板は合板と違って足へのあたりも柔らかくて心地いい」

 もちろん、ハウスメーカーの家は精度も高いし仕上げもきれいなのですが、素材の面ではセルフビルドのほうがいい材を使うことができます。

 そして、ローンを返すのは辛いけれど、家を建てるのは楽しい! 誰かに建ててもらった家に住んで数十年かけてローンを返すより、楽しみながら数年かけて家を建てて、家が建ったら借金はなし、というのも気持ちがいい。

 私のように、ローンが組みづらい人生を送っている人には、セルフビルドがおすすめです(笑)。私は仕事をしながら6年かけて建てましたが、集中して時間をかけられる人なら、3年程度で建てられると思います。「着工と同時に娘が誕生。ときに嫁は娘を背負って作業にあたりました」

● 家は若いうちに建てろ! 
 人並みの体力と知力があり、物作りが特別に不得意な人でなければ、家づくりはそれほど難しくありません。

 取り組むまでは『できないかもしれない』と思えた作業も、挑戦してみればやり通せないことはありませんでした。そして、実践に勝る練習はないので、周囲に家をセルフビルドする人がいたら、ぜひ手伝いに行きましょう。

 そんな機会がない人には、家を建てる前に作業小屋を作ることをおすすめします。雨ざらしにしたくない道具や資材を置けるし、なにより、基本的な技術を練習できますから。材木を繋ぐのに多用した「腰掛け鎌継」。「伝統工法の技術のなかから、比較的強度が高く作りやすい技法を取り入れました」

 もしも今、家を建てる前の自分にアドバイスするなら、駅から離れても土地を広くしろ、と言いたいですね。田舎ではほとんど車生活になるので、駅まで徒歩10分という条件はそれほど重要ではありませんでした。それよりも自宅より30分圏内にスーパーやホームセンターがあることの方が大切です。

 広大に思えた300坪という広さも、田舎暮らしにはちょっと狭かった。家を建て、2台分の駐車場を確保し、薪小屋を据えたらこれで敷地はもういっぱい。田舎暮らしには、ある程度の敷地の広さが必要なんです。

 この界隈では、駅から多少離れれば1000坪の敷地でも500〜600万円が相場。今なら断然、そちらを選びますね。

 そして、家づくりに取り組むなら若ければ若いほうがいい。早いうちに建てれば長く住めるのはもちろんのこと、何よりセルフビルドには体力がいる! 自分の体もそうですが、作業を手伝ってくれる友人も一緒に歳をとってしまうので、自分も友人も若いうちに取り組むのがいいですね。歳をとると、高いところとか怖くなっちゃうし(笑)。棟上げなどの作業は、6mの単管を三脚に組んで材木を吊り上げた。「こんな作業では身軽な友人が大活躍する。高い場所での作業は若いうちのほうが楽ですね」

● 家づくりは、冒険だ
 最初、『家をセルフでビルドしたい』はハウツー寄りの本にするつもりだったのですが、版元から「読み物として出したい」と要望があり、カメラマンなのに書き下ろしてしまいました。読み物なので、今回はDIYとかクラフトなどのスペースだけでなく、ノンフィクションやエッセイのコーナにも展開をお願いしています。

 DIYを軸にすると、実践したい人向けの本になりがちですが、『家をセルフで〜』は家を建てようと思っていない人にも読んで欲しいんです。ほら、冒険記とか探検録って、冒険しない人が読んでも楽しいじゃないですか。『家をセルフで〜』はそんな感覚で読んでほしい。家づくりは、冒険なんです。着手したときには成功するかもわからないしね(笑)。

家をセルフでビルドしたい
大工経験ゼロの俺が3LDK夢のマイホームを6年かけて建てた話

阪口 克
文藝春秋 ¥1,650+税

プロローグ 荒野に立つ中年
第1章 建築前夜
第2章 準備に奔走する
第3章 刻んで建てて
第4章 屋根という悪夢
第5章 壁工事のち迷走
第6章 泥沼地獄のち壁工事
第7章 ついに屋内へ!
第8章 ひたすら壁と天井
第9章 キッチン、風呂、ストーブ
第10章 3月31日の引っ越し
エピローグ 7年目のクリスマス・イブ

 
 
ライター
Akimama編集部
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