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ついに6カ国目となった「地球を滑る旅」。プロスキーヤーの児玉 毅(こだまたけし)さんと、カメラマンのサトウケイさんがスキーとカメラを持って、およそスキーができるとは思えない場所を目指す、出たとこ勝負のドタバタ旅。これまで旅してきたのはレバノン、モロッコ、アイスランド、カシミール、ロシア。そして、今回は地中海の楽園・ギリシャへと向かいます。果たして神話の国でスキーなんてできるのか? 加えて、パウダーパラダイスの北海道に住みながら、世界の辺境の地で滑走を重ねる二人が求めているものとは?
ほぼスキーを口実に楽しんできた二人の旅はまだまだ続きますが、ひとまずAkimama特別編の集中連載は今回でひと段落。それでは最新のフォトブック「ギリシャ編」が生まれるきっかけとなった不幸な夏の夜から、お話を始めましょう。
今回滑りに行った国 地名:ギリシャ共和国 面積:約13万2000㎢(日本の約2/5) 人口:約1081万人(日本の約1/12) 通貨:ユーロ(1ユーロ≒128円) 公用語:ギリシャ語 |
ある猛暑日の夜のこと。
札幌の倉庫街にあるフットサルコートで、俺は汗を流していた。サッカーもフットサルも初心者だったけど、息子二人のサッカー練習に付き合うようになってからサッカーにはまってしまい、それがエスカレートしてきたのだ。
もともとスポーツにおいては負けず嫌いの俺は、経験者ばかりのメンバーに混ざり、若い頃に鍛え上げた身体能力だけを頼りに、無駄に走り回っていた。
味方のパスが足元に来て、とっさに受けたトラップが、珍しくイメージ通りの場所に転がった。俺は、唯一自信がある瞬発力に任せて相手を一人かわし、右サイドを駆け上がった。
「フリーだ!」
角度はないけれど、キーパーと1対1。慣れないフットサルボールはシュートが難しいので、思い切り打たないと入らないだろう。シュート前のタッチが少し大きくなってしまった。俺は大きく一歩を踏み込んで、少し体制を崩しながらも、シュート体制に入った。そのとき......!
『バン!!!』
ふくらはぎのあたりで、何かが爆発したような強い衝撃を受け、俺はコートに転がった。誰かが後ろからディフェンスしたのだろう。社会人のお楽しみフットサルで、そりゃないよ!そう思って後ろを振り返った。
ギリシャといえば、青い海のアイランドリゾート。そもそもそんな国でスキーなんてできるのかよ? エーゲ海に浮かぶ離島、パロス島にて。
「ファール!......って、あれ?」
俺を蹴った人など誰もいなかったのだ。その時、珍しく脳ミソがフル回転して、自己診断を始めた。40代男性、フットサル、ふくらはぎで何かが弾けるような衝撃......。これって、運動会で頑張りすぎたお父さんがやってしまう、アレかもしれないぞ......。
しかし、信じたくない自分がいた。20年以上をプロスキーヤーとして生きてきた俺は、世間一般的に見ると、立派なアスリートだ。それが、社会人のお楽しみフットサルで、アキレス腱を負傷しただなんて......ダサくない?
こうして俺は、 "父ちゃん、ダッせ〜!" とドン引きする息子たちに送り出されて、アキレス腱縫合手術を受けたのだった。主治医の井上先生には、
「タケ、もう歳なんだから、治るの早くないんだぞ。無理するタイプだから、2月までスキー禁止だな!」
とお灸を据えられたのだった。
2月って......。地球を滑る旅、行けるのか?怪我をすると、無性にスキーがしたくなるのは、俺だけだろうか。過去に手術と入院を必要とする大怪我を3度経験したけれど、その度にスキーが大好きになった。
アキレス腱のオペを受け、リハビリに励みながら、俺の滑走意欲は妙に高まっていた。主治医になんと言われようが、地球を滑る旅に行くつもりだ。次はどこに行こうか。そんな妄想ばかりが膨らんでいく。
そんな時、毎日、アキレス腱とスキーのことしか考えていない俺が、ふと思った。そういえば、アキレス腱の「アキレス」って何が語源なんだっけ? アキレスとは、ギリシャ神話に登場する英雄、アキレウスから来ているという。
「ん? ギリシャ?」
そういえば、ギリシャで誰かがスキーをした話を聞いたことがなかっただろうか。かなり昔のことだけど、友人の女の子がギリシャを滑ったという話を聞いて、猛烈に嫉妬したのを思い出した。
旅の行き先が決まる時というのは、往々にして、どうでも良い些細なことがきっかけだったりするのだ。